1 出会い

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1 出会い

 今年もまた別荘地アヴァンズロックでの夏がやってきた。  夏を共に過ごす幼馴染たちのうち、最年長のジョシュアが成人した3年前からは特に楽しい。伯爵家を継ぐまでの間ノリス子爵となったジョシュアは、アヴァンズロックへやってきて広い館へ僕たちを招いてくれる。つまりなにが言いたいかというと、大人たち抜きで好き勝手に楽しく過ごせる夏を、ジョシュアは提供してくれるのだ。  4年目である今年は、今までと大きく違う点がある。  兄であるチャーリーの婚約者お披露目パーティーが催される。  パーティーといっても、やる事はいつもとかわらない。  令息令嬢が集まって遊んだり、飲み食いしたり、たまに勉強。    僕は兄の婚約者、男爵令嬢ノーマ・ウィールライトと会うのが楽しみだった。  ふたりが出会った舞踏会には行かなかったので顔も知らない。実は間抜けにも馬から下り損なって捻挫し、招かれたにも関わらず欠席したのだ。そんな話、ノーマにしてなきゃいいが……  ともかく、兄が選んだ令嬢という事で、あらゆる期待をしていた。  それは僕だけでなく、エドマンドソン家のアーサーとマーカス、グランヴィル家のダニエルも同じだ。最年長のジョシュアと最年少のベネディクト・ルガードは温和な性格だから、楽しみや期待というより、心から歓迎していた。ちなみにベネディクトだけが侯爵令息で、あとは伯爵令息。  あともうひとり、グランヴィル家のキャロルがいる。  幼馴染といっても伯爵令嬢だから、彼女は基本グランヴィル家の別荘で過ごし、僕らの城へは日中だけ遊びに来る。  大人たちから堅く信頼されているジョシュアも、キャロルの滞在には気を配った。メイドをひとりつけたり、夕暮れ前に帰したり。妹みたいに可愛がってきたキャロルに醜聞なんてつけるものかと、静かな気合を感じる。  ともあれ、僕はこの日を心待ちにしていた。    ジョシュアの別荘は広い図書室を中心に抱えている。2階まで吹き抜けで壁一面ぎっしり本で埋まり、部屋自体はポカンと開いているので、そこに家具や遊具や食べ物を並べるのだ。  準備は整っていた。  図書室にはチャーリーとノーマ以外の全員が集まり、待ち構えている。  樫の扉を挟むアーチ状の階段のうち、向かって右側の3段目に腰掛け、ヴィオラを構えた。僕の演奏に合わせてジョシュアが扉を開ける。   「の入場です!」  ダニエルが陽気に叫び、シャンパンを開けた。
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