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2 似合わない
ノーマの姿を見た幼馴染たちの顔が、微妙に固まった。
ジョシュアだけは心から歓迎しているふうな微笑みを浮かべたままノーマをじっと目で追っている。ベネディクトはきょとんとして、ぽかんと口を開けた。
ノーマはどちらかといえば小柄で、太っていないが寸胴で、地味な顔で、ブルネット。チャーリーの好みから大きく外れている。もしかすると数年後は美人になるかもしれないという程度には、難のない顔立ちではあっても、確実に美女ではない。
そして、キャロルだ。
完全に興ざめな顔をして、敵意と軽蔑を顕わに睨みつけている。
「……」
僕はヴィオラを演奏している。
そして自分の音色にうっとりと目を閉じる事にした。
なぜ、兄はノーマのような女を選んだのか。
それを考えざるを得なかったのだ。
「婚約おめでとう、チャーリー!」
「ありがとう。お前もすぐだ」
薄目を開けたら、ちょうどキャロルの兄ダニエルがシャンパンのボトルを掴んだまま腰をあげ、手を伸ばしていた。僕とダニエルは同じくらい体格がいいから、夜になると兄には区別がつかなくなる事があった。ただ楽器を演奏するだけあって、僕のほうが繊細な手つきをしているらしい。そんなわけで、兄とダニエルが力強い握手を交わしている。
ノーマは、硬いような、鈍いような、そつなくもない細やかな笑みを浮かべてお辞儀をしている。キャロルがついに鼻で笑った。なんだこの田舎娘はって感じで。
そう、田舎娘!
洗練された会話や芸術や衣装を好むそこそこ気取り屋の兄には、まったく似合わない婚約者だ。
ノーマを誰よりも歓迎しているのは、家主のジョシュアだった。
新しい仲間として、そして幼馴染の婚約者として、心から喜んでいるらしい。兄とノーマを二人掛けの長椅子へ促し、グラスをふたつダニエルに向ける。ダニエルが雑にシャンパンを注いだせいで、片方は無様にも零れた。ジョシュアは零れたほうのグラスはテーブルに置いて、新しいグラスをダニエルに向けた。
「気をつけろよ」
気を利かせたのはエドマンドソン家の兄弟で、アーサーが零れたグラスを引き取り、マーカスがダニエルからボトルを引き継ぐ。ダニエルはノーマにやあと笑いかけて座った。
「こんにちは」
最年少のベネディクトがあどけなさの残る顔に余所行きの笑みを浮かべて立ち上がり、ノーマに軽く頭を下げて自己紹介している。それをジョシュアがもはや母親のような慈愛に満ちた眼差しで見守り、やっと主役のふたりの前にグラスを置いた。
「紹介しよう。婚約者のノーマ・ウィールライト男爵令嬢だ」
ノーマが無言で丁寧にお辞儀し、まばらな拍手が起こる。
僕は演奏を終え、ヴィオラを置いてダニエルの隣に座った。傍へ寄ると、ますます信じられない気がした。そしてノーマの瞳に冷徹さと知性を見た気がしたが、不躾だからグラスと料理に目を走らせた。
違和感の正体は、つまり先入観。
格下の男爵令嬢なんだから、もっと浮かれて、燥いでいるものだと思い込んでいたのだ。
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