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4 午後の一幕
大富豪の娘で、貴族に混じって気取らず出しゃばらず、ノーマは無難にやり過ごしていた。
アーサーとマーカスはノーマよりノーマの父親に興味津々で、ダニエルは陽気な酔っ払い、ベネディクトはまだ子供みたいなもの。ジョシュアは気配りの天才で、僕も気取らずいつも通り過ごせた。なんといってもノーマはドレスがパイで汚れても笑っていられるほど図太い。この先もしキャロルが爆発しても、たぶん平気だろう。
そしてその時がやってきた。
「なんであの子はよくて私は駄目なの!?」
「キャロル、君を日が暮れる前に帰すという約束だからだよ。それに彼女には迎えが来るし、チャーリーの正式な婚約者だから立場が違う」
図書室の戸口でジョシュアがキャロルを宥めている。
話の流れでウィールライト家もアヴァンズロックに別荘を所有しているとわかっていた。湖を挟んでこの館の反対側だから、ノーマはキャロルのように徒歩では帰れないのだ。
「立場? 私に許されない事も大富豪様には許されるって言うの?」
「そうじゃなくて、君には将来がある。たとえ兄妹みたいな幼馴染とはいっても、令嬢がお目付け役なしに男の中で過ごすのはよくないよ。彼女は婚約者同伴だから、つまりチャーリーに社会的責任があるんだ。日が暮れても、たとえ朝が来たって間違いは起こらない」
「お兄様がいるのよ! 間違いなんか起きるわけないでしょうッ!?」
キャロルがダニエルを指差して叫んだ。
ダニエルはビリヤード台に半分腰掛けてヘラヘラ笑っているところだ。僕とアーサーに負けそうだと気づいてもいないが、最高に楽しんでいる。マーカスはベネディクトと2階の回廊でチェスの対戦中、兄とノーマは並んで本を読んでいた。
「ダニエルは世話をされる側だ。あてにできない」
「ジョシュア!」
「キャロル、これは約束なんだ。守れないならもうここに呼べないよ」
魔法の一言が効いて、キャロルが帰っていった。ノーマに当て付けたのか、普段しないような格式張った挨拶を残して。まあ2階の手すりからベネディクトが身を乗り出し、
「キャロル、また明日ね!」
と、無邪気にぶち壊したが。
キャロルを見送ると、ジョシュアは夕食の指示を出すため厨房へ向かった。
そして兄が待ってましたとばかりに本を棚に戻し、肩を回しながら大股でこっちに歩いてきた。ノーマは目もあげなかった。婚約したてにしては冷たい。
これが金のための結婚かと、ふと嫌な考えが脳裏を過る。
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