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8 裁きの下で
裁判の朝、私は芯から凍りついてた。
あの子を喪ってからというもの、生きている意味もわからず、いつ死んでもいいとさえ思っていたのに。それなのに私は、無実の罪で罰せられる事も、死さえも恐ろしくてたまらなかった。
私はフィロメーナの服を上掛けで包み、フィロメーナの眠った小さなマットに上半身を預けて2晩のうち数時間だけ眠った。
ポルフィリオは消化のよさそうな、野菜を柔らかく煮詰めたスープを私に与えた。
只一つの救いは、もし、夫の悪事が彼に勝ち、私が死刑になったとしても、あの子のもとへ行けるという事だ。
裁判は寒い朝早くから行われ、私は3番目だった。
判事と司教と陪審員が私を錐のような眼差しで見つめる。
夫は驚くほど雄弁に私の罪を語った。
「恥ずかしながら私の妻、あの女は、正気を失った大淫婦なのです!」
私はポルフィリオと、彼の雇った弁護士に挟まれて最前列に被告として座っている。証言台に立つ夫をまともに見る事も出来ずに、小さく息を吸ったり吐いたりしていた。
「今となっては愛する娘フィロミーナさえ私の子であるかどうかさえわかりません。これほど傷つき、軽んじられても尚、私は妻への愛に心を苛まれるのです。だからこそ公正な裁きを、崇高なる法と神のもとで仰ぐのであります!」
「……」
私は体の緊張が緩み、頭が冴えわたっていくのを感じた。
あの男は、偉そうにあれこれと言いながら、娘の名前を言い間違えた。
そして自信満々に証言台を下り、勝ち誇ったように私を一瞥して、席についた。
ポルフィリオの雇った弁護士がまず証人として挙げたのは、ほかならぬポルフィリオ・デ・ロッシ。彼は冷静に、そして丁寧に私のありのままを語った上で、断固とした意志を表した。
「私はこれほど不幸な母親をほかに知りません。セミナーティ氏の訴えは全くの嘘偽りであり、私の古き友人の無罪を主張するとともに、私への名誉棄損及び侮辱罪を問われて然るべきものであります」
陪審員は私に対して、批判的とも同情的ともつかない難しい表情で彼の弁論に聞き入っていた。彼には莫大な財産がある。この裁判の成り行きが公正なものになるかどうかを、そもそも疑っているのかもしれない。
続けて証言台に立ったのは、うちの執事だった。
彼は夫と共に私を見下していたはずだ。私は耳を塞ぎたい思いで俯いた。夫には憎しみがあるから、なにを言われてもいい。けれど使用人からの悪意を間近で聞かされるのは、とても居心地の悪い思いがした。
老齢な執事は背筋を伸ばし、神に誓いを立て、語り始めた。
「奥様はお嬢様を亡くされてからというもの、哀しみのあまり飲酒が止まず、不健康な暮らしをなさっておりました。私には止める事が叶わず、ただ胸を痛めたものでございます。日常生活もままならず、亡きお嬢様の御召し物を胸に抱いて日夜問わずに泣いておられました。奥様にはお嬢様が全てでございましょう。それにお部屋を出たのは、この3年の内、お嬢様の眠る墓地へ赴かれる時だけです。今年は旦那様がお客様を招かれあまりに丁重におもてなしをされていたため、気が回らず、また金策などご存知ない奥様は、ただひとつの贈り物である結婚指輪を移動資金に変えるしかなかったのです。私には旦那様がなぜそのようにお考えになったのか理解が及ばず恐縮ですが、奥様は無罪であると、申し上げる所存でございます」
「……え?」
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