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1 私の天使
娘の葬儀で、私は彼と再会を果たした。
「私を馬鹿にしているんでしょう……!」
「ミネルヴァ」
「嘲笑っているんだわ」
「違います。心からお悔やみを、そしてあなたの天使に祈りを捧げるために来たのです」
「……っ」
ポルフィリオ・デ・ロッシは泣き崩れる私の腕を優しく掴んだ。
彼は私を憎んでいるはずだった。
だから、不幸のどん底に沈んだ私を、嗤うために来たのだと本気で思っていたのだ。
でも彼は、棺に眠るフィロメーナを天使と言ってくれた。
それで私は、彼に、縋ってしまった。
「可哀相に。こんな哀しみは他にないでしょう。あなたの苦しみはきっと、この世でいちばん激しく、大きいものだ」
「ああ……私の……フィロメーナ……ッ」
2才の娘は流行り病にかかり、呆気なく死んでしまった。
可哀相に、熱を出して、一晩苦しんで、そして朝、冷たくなっていた。
代わりに死ねたら、どんなによかったか。
代われるものなら私が……
「ミネルヴァ」
ポルフィリオは丁寧に私の体を剥がし、注意深く目を覗き込んでくると、幼い子供に言い聞かせるように穏やかな口調で言った。
「俺にできる事があれば、なんでも言ってください。見返りは求めません。なんでもいい。ただひとつ、あなたを天使のもとへ送る事以外であれば、どんな事でもしますよ。さあ、ミネルヴァ」
雄々しい野獣のような彼の風貌からはとてもかけ離れていて、ふしぎで、私は哀しみの内にもぼんやりと見入ってしまったのだった。
「……ぁ……」
彼は財を成し、この世のすべてを手に入れる事ができた。
まるで王のような、神のような彼を、私はかつて、拒絶したのだ。
私の目は狂っている。
だから、私は、フィロメーナのような天使を授かるのには、相応しくなかったのだ。神様はフィロメーナに酷い母親の元で酷い人生を送らせるのではなくて、とても美しいうちに、天国へと招かれた。
そんな考えが、頭を過った。
「……私を、罰して……」
「いいでしょう」
彼はそう低く囁くと、私を固く抱きしめてくれた。
だから私は、彼の腕の中で激しく泣き続けた。
小部屋には私を心配した母が入ってきたけれど、咎められはしなかった。
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