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開けっ放しの隣の和室には、1人、老婆が背を丸めて座っていた。
「お婆ちゃん、ホラ、村賀君。トヨオの友達の」
母がその老婆に声をかけた。
すると老婆は、ちゃぶ台に手をかけ「よっこいしょ」と重たそうに立ち上がり、こちらへ寄ってきた。
「へぇ〜、村賀さんかぁ。んだー(あらー)、懐かしかね〜。こげん、おせろしゅなってー(大人になってー)」
と相変わらず方言丸出しで、そして涙ぐんでいた。
このバーチャンは九州出身らしく、こんな調子で判らない方言も多かったが、それがまた私には懐かしかった。
「お婆ちゃんも元気で何よりですよ。で、おじいちゃんは?」
秋地の祖父が見当たらない。
「ジーサンはね、今、散歩に行っちょるよ。健康の為に歩かなイカンなーちゅうてね。人間ドック行くと、色々、引っかかるようになってねー」
と祖母は語った。
「秋地君は・・」
と言いそうになったが、私は部屋の隅にあった仏壇に線香を上げ、手を合わせた。
遺影は当然ながら、大人になってからのモノである。
シャープな顔立ちにはなっていたが、アノ当時との変化は少なく、そのまま年をとった感じだった。
私も同窓会で何人かに「変わってないね」などと言われたが、きっと、こんな感じで、ただ老いていっただけに見えたのだろうと思った。
ちゃぶ台の前に正座して座ると、おばちゃんが、茶を入れて運んで来た。
「元気そうね、村賀君。今、ドコに住んでるの?両親は元気?」
「結婚して、N田市にすんでます。母親も一緒に住んでますよ」
「そうなんだ」
彼女は何回となく頷いた。
「帰って来ていることを知ってれば、もっと早く訪ねてたんですが」
と言うと
「そうねー、あの子も村賀君に連絡でもしたら良かったのに」
と、仏壇に目をやった。
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