11人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
テレビ画面の天気予報を見ているわたしに羽田が、心配げに声をかけてくる。
「最近顔色良くないよ?どうしたの。奈緒」
滝のような雨が降るザーザーと、稲光が鳴る。轟音で消される声がわたしにははっきり聞こえるの。貴方の低い声。
『いい人ぶって満足してたのお前だろ!!』
ザーザーと雨粒が窓ガラスを叩いてく。彼がヒモ男だって許せた。主夫をしてたから。許せなかったのは何人も女がいたこと。問い詰めると罵倒され、彼の手が振ってきた。
「夕立だからね」
羽田が身震いしたのを覚えてる。編集長はしばらく休めと言っていたじゃない。
「具合が悪いから帰るね」
※※※※
耳をつんざく雷鳴に震えていたわたしはいない。駆け足で軒先に逃げてく人を見て、わたしたちが重なる。思えばあれがピークだったかもしれない。衣服が雨で濡れていっても、ドキドキしてるのは何故?
「帰るなら連絡ぐらい入れろよ!!」
不機嫌なあなたの顔はわかりやすい。妙に綺麗な玄関口、慌てて溢した液体が床をキラキラ光らせてる。二つ分のカップを仕舞い忘れたらしい。
「わたしは止めたのよ?」
あなたが泊まる先がない子犬のように震えてたから、匿ってあげたのに。わたしが仕事を紹介したお店なんて一回も行ったことがない。全てあなたのためなのに・・・
止めて欲しい、今なら間に合う。雨で濡れたわたしを抱きしめてくれればよかったのに。
「しらねぇよ!!」
稲光で明るくなる室内、あぁそこにいるのね。
ポタポタ、ポタ、
彼が逃げてく先を追いかけて、濡れた床に足を滑らせた。
ドーーーーーーーーーン!!
わたしが転んでも振り返りもしない。痛みが憎しみに変わる。
「あなたが好きな人がいるじゃない!!」
ベランダで雨宿りをしている図々しい女。守る人はそこにいる。
「ま、待ってくれ!!」
彼をベランダに追いやり、鍵を閉める。ドンドンとうるさい音がする。
ドンドン、ザーザーザー・・・
「わたしはいい人ってあなたが言ったんじゃない」
ベットに行き包まってあの人の帰りを待つの。
「はやく帰ってきてよ・・」
ベランダの窓が雨粒で激しく打ち鳴らされる。わたしは指輪を見つめながら、震え笑う。
最初のコメントを投稿しよう!