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おまけ
「おぅ、高井さん。新人戦は素晴らしかったな」
九月の下旬、健太は廊下で野呂に声をかけられた。健太は新人戦の200m個人メドレーで見事県大会優勝を決め、この日校内表彰をされたばかりだ。
「あ、野呂先生。こんにちは」
「この調子で、数学の中間テストの対策もちゃんとやってくれよ」
耳元で野呂がそうささやく。
「それについてなんですけど、先生」
「どうした?」
「テスト問題、もう少し易しくなりませんか?僕には難しすぎます」
健太がそう訴えた。無理もない。前回の期末テストは学年最高点が88点。平均点が37点というかなり厳しいものだったからだ。
「それはできない相談だなぁ。僕の定期テストの問題では基礎の問題は勿論応用問題、入試レベルの問題、そしてさらに上のレベルの問題も網羅した形で作ってるからね。勿論、教科書で習った範囲の中で」
「そうですか。わかりました。ところで、用具室でこんなものを見つけたんですけど、先生は心当たりがないですか?」
健太はポケットの中から1枚の紙を取り出し、開いて野呂に見せた。それを見た瞬間、野呂はばつの悪い表情を浮かべた。
「この学校の水泳用具室には、ひとつ伝説があるそうですね。もう一度お願いします。テスト問題、もう少し易しくして貰えませんか?」
「……考えておこう。約束はできないけどな」
野呂は健太に紙を突き返してそう言い残すと、足早に健太のもとを去っていった。
健太が持つ紙には、大助という名前と萌という名前がしっかりと彫られ、ご丁寧に大きなハートマークが描かれた相合傘の写真が収められていた。
育休中の英語教師である萌の夫は、野呂大助である。
【終】
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