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それがオレの仕事だった。きっかけは分からないが、いつからか悲しそうな人がいればホースから出る水をかけてやった。すると、皆たちまち元気になったり穏やかになったりした。この水で降らせる雨には悲しみを洗い流す効果があるらしい。
なぜ、オレはこんなことをしているのだろうか。近くにあった店に入りながら考える。小首を傾げながら歩いていると、テーブルの上に置いてある小さな籠に目が入った。その中には飴が山盛りになっている。周囲を見回し、誰も見てないか確認する。
「ご自由にどうぞ」って書いてあるからいいよな。オレは飴を一つとると、そのイチゴ柄の包みを開けた。口に含むと、イチゴの甘酸っぱさとミルクの甘味が広がっていく。なんか分からないけど、この飴好きなんだよな。オレはさらに飴を片手で掴むと、ポケットに入れていった。
もう一回分くらいいいよな。山盛りの飴に手を伸ばしたそのとき、小さな手が重なる。視線を向けると、男の子も飴を取ろうと手を伸ばしていた。男の子は大きく円を描くようにレインコートや長靴を見たあと、後ろへ向き叫ぶ。
「ママ、パパ、変な人がいるー!」
すると、その子の両親は飛びつき、その周りにいた人々からも注目を集めた。
「大丈夫、何かされてない? 変な人はどこにいるんだ?」
問いかけられ男の子はオレを指差す。両親もこちらを見たが、どこか遠くの方を見つめていた。
「もう行っちゃったってこと? どんな人だったの?」
「すぐ近くにいる。黄色い人」
手を伸ばし、レインコートを掴もうとしてくる。オレはギリギリつかめないところまで離れると、舌を出した。
「悪いけど、触られた奴にしか見えないみたいなんだ。君もそろそろ見えなくなると思うから、それじゃあね」
そう言うと、男の子は饅頭のように頬を膨らまし睨みつける。オレは笑い飛ばし、他の人間にぶつからないように離れていった。
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