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いや、うっかりやらかしちまったぜ。気を付けないとな。店を出て再び街を歩いていると、ベンチに座りうなだれる女性がいた。その手にはスマートフォンが握られている。覗き込めばアイコンの隣に「ミキ」と書かれていた。この「ミキ」さんにも何かあったみたいだな、気を取り直して雨を降らせるぞ。いつものようにホースを持ち、彼女の上に向ける。先をつまむと水が溢れ始め、雨のように降り注いだ。じっと見ていると、彼女が顔を上げる。
「あ、雨・・・・・・」
ミキさんは呟くと、小さく笑い始めた。その顔は泣くどころか微笑みを浮かべている。
「なんで笑っているんだ。まだ悲しみを洗い流していないはずなのに」
思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。当然見えていないのだが、なぜかオレのことを笑っている気がして顔が熱くなった。ホースの水が止まっても変わらず、濡れた服に苦笑するだけだった。
なんで効果がないんだ、雨が嬉しかったってことなのか。なんか、よく分からないが、オレのプライドをかけて、絶対彼女を泣かしてやる。スキップ交じりに歩くミキさんを背にオレはホースを握りしめた。
それからというもの、何度かミキさんが落ち込んでいるのを見かけると雨を降らせた。でも、結果は変わらず、オレは他の人間の悲しみを洗い流してないときは彼女の様子を見ることにしていた。
この前もいわゆる外回り途中のミキさんを見かけた。
「やば・・・・・・遅れる!」
ジャケットを着ながらパンを頬張る姿は漫画のようで思わず吹き出してしまった。しばらく眺めていると、彼女が足を止める。そこは洗車場で車を洗うお父さんらしき男性と娘らしき女の子を見ているような気がした。そして、ため息と同時に肩を落とす。男性それとも女の子と関係が……でも前はいなかったし。首をひねりながらもホースを向け、雨を降らせた。すると、ミキさんはいつものように空を見上げ、笑みをこぼす。そして、濡れた服に彼女は笑いながら再び走り出した。
さらに、疑問が募るばかりで理由は分からない。他の人間そっちのけでも行った方がいいか。オレが彼女の後ろをついていこうとすると、泣き声がする。振り返ると、洗車場にいた女の子が転んでしまったようだ。痛みに歪む顔を見ると、放っておけなくなる。これも性なのか。オレはその親子の元へ走り寄った。
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