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熊谷君と宇佐木さん
夏。風が微かに吹き抜ける非常階段の最上部分では、一人の男がスマホを横にして指を動かしていた。銀色の短髪に、耳には黒色のピアス。制服は乱れており、まさに不良というべき存在。熊谷勇斗、17歳、現役高校二年生。こう見えて、学年一位の成績優秀者だ。
授業にはほとんど顔を出さないのに、カンニングをしているかのようにいつも最高得点を取る。無論、熊谷はカンニングなど一切していないのだが、容姿で判断している先生たちはすぐに生徒指導室に呼ぶ。けれどどこにも物的証拠は無く、いつも何のお咎めなしで帰されるのだった。
高校二年生に進級してからは先生たちも諦めたのか、それとも認めてくれたのか生徒指導室に呼ばれることは一度も無かった。何も問題は起こさないし、成績も優秀。不良だけどちょっと違う、そんな熊谷はいつしか周りから「不良風の熊谷」とあだ名が付けられていた。
そんなことなど知らず、今日も二時限目をサボって非常階段で大好物のゲームを遊んでいると、階段を上ってくる誰かの足音がした。最初の時は先生かと思って、熊谷もビビって隠れていたが、今は違う。何せここは立ち入り禁止区域。何かあったときしか使えない。だから絶好のサボりスポットだった。
今日もか、と思いながら熊谷は足音を無視しながらピコピコとゲームを操作していくと、非常階段下でひょこっと小さな顔が現れた。それから今度はスラッとした手足が出てくる。
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