1.振られるまでのこと

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 そうなるともう、目を見開いて、息を凝らして、いわゆるガン見の始まりだ。かなり長い時間が経った気がするけれど、実際は数十秒。彼の頭が動いて顔が上がったところで、ようやく気が付いた。私が今やっていることって、覗き見だよね。しかもこの彼の方に見覚えがあって、さらに動揺が大きくなった。 「耀(ひかる)くん……?」  小さくつぶやくその声に反応するように、彼がこちらを見返し、視線が私を捉える。やっぱり、耀くんだ。その端正な顔立ちに、久し振りに会ったなぁなんて、場違いな感想が一瞬浮かんでしまった。  江﨑(えさき)耀(ひかる)くんは私の兄の同級生。体育会系でガサツなお兄ちゃんとは対照的に、物腰が柔らかく、穏やかな印象がある。小中学生の頃はよく我が家に遊びに来ていた。高校に入ってからはあまり来ることも無くなったけれど、それまでの付き合いから、未だに私の中では身近な存在の人だ。そんな彼が、女の子と抱き合ってキスしている。
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