1.振られるまでのこと

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1.振られるまでのこと

 初めて見た光景が自分の意識に刷り込まれるって、あると思う。私が異性というものを意識したのは、中学一年生の時だった。夏のある夜に見た、とある光景がきっかけだ。  水泳教室からの帰り道、バス通りを歩いていると制服姿のカップルが視界に入った。自分より年上の、多分高校生。その二人が道とは言えない家と家の隙間に入ってゆく。なんであんなところに? そんな素朴な疑問と好奇心を抑えきれなくて、私は彼らの後を追うようにその隙間を覗き込んだ。  真っ先に目に飛び込んだのは、家の窓から漏れる灯りに浮かび上がる女の子の後ろ姿。そしてそんな彼女の腰にまわされた腕で、もう一人の存在を確認する。彼女を包み込むように抱きしめている彼の体は、隠れて見えない。  ……あれこれ、もしかして、キスしてる?  後ろに反らされた彼女の後頭部と突き出された彼の頭頂部。このシチュエーションから導き出される彼らの行動はそれしかなかった。
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