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――そうして、待ちに待ったレスタニア学院の入学式!
私は16歳になって、超絶愛されヒロインらしく可愛くて完全無欠な令嬢に育ったわ。
両親から「危ない男に引っかかったらどうしよう」「アリーは可愛すぎるから心配」なんて引き留められながら、私は胸を躍らせて学院寮へ入寮。
伯爵家以上の貴族子息女は1人部屋って決まっているのよね、しかも隣には侍従用の部屋付きで安心・快適!
レスタニア学院在籍中は皇子だろうが平民だろうが、身分をひけらかしてはならない、平等に過ごすべしって暗黙の了解があるんだけど……でもゲーム的にそんな平和な学院生活、面白味がないでしょう?
結局、身分の高い貴族は平民をいびるし、平民は貴族に媚びへつらわないと3年間まともに生活できない仕組みになってるのよね。ゲームの中と言えども世知辛いわ。
まあ、伯爵令嬢で愛されヒロインの私に、そんなもの関係ないんだけど!!
◆
――なんて、ウッキウキで入学式を終えた訳だけど……おかしいのよ。何がおかしいって、何もかもがおかしいの。
私はゲーム通りに入学試験で1位の成績を叩き出して特待生になったし、皇子との出会いイベントも起きたわ。
入学式当日、学院の校門に颯爽と現れたアレッサこと私に、周囲の生徒は一目置くの。「あれが噂の特待生か」「あの難問を解いて1位を取るなんて」「今年の入学者にはヴィンセント皇子も居るのに」なんて言ってね。
いや、私からすれば「難問 (笑)」って感じなんだけどさ。三角形の面積の求め方なら私に任せなさいよ、底辺×高さ÷2!!
ゲームでは校庭がざわつく中、皇子がやって来て――「やあ、君が特待生か。残念ながら僕は2位だったよ、もっと精進しなければいけないね」って声を掛けてくれるの。
皇子は女性不信だから、すごく表面的というか……「皇子として」取り繕った作り笑顔なんだけど、でも彼の隣に居たエヴァンシュカは大激怒よ。「皇子より良い成績を修めるなんて ありえない」「皇子に声をかけられた挙句 笑いかけてもらうだなんて」「身の程知らず」ってね。
……いや、そうなるはずだったのよ。
「やあ、君が特待生か。残念ながら僕は2位だったよ、もっと精進しなければいけないね」
「ヴィンセント皇子……! お初にお目に掛かりますわ、王子にお声がけ頂けるだなんて身に余る光栄でございます」
――ここまではゲーム通りよ。
私のセリフも、お辞儀の角度だって完璧。初めて見る生ヴィンセントに内心舞い上がりながら、私は彼の隣に立つ女生徒を見て……固まった。
「本当に素晴らしいですわ、カレンデュラ伯爵令嬢。もうクラス割は御覧になりまして? わたくし達、同じクラスですのよ……是非わたくしとお友達になってくださらないかしら」
ひとつも嫌味のない言葉を吐き出して、穏やかな表情を浮かべて話しかけてくる美少女はエヴァンシュカ……ではなく。ゲームで見た事のない女生徒だった。私は何が起きたのか分からなくて、つい「素」を漏らしちゃったのよね。
「――――は? 誰よアンタ……」
私のあんまりにもな言い草に、周りに集まっていたモブ共はもちろんのこと、ヴィンセントまで瞠目して眉を顰めた。
ついさっきまで私のことを褒めそやしていたモブが、「皇子の婚約者に向かってなんて無礼な」「ありえない」「入学試験で1位だったからって、何か勘違いをしているんじゃあないのか」って……それはもう綺麗に掌を返したわ。
でも仕方がないじゃない、誰よこの女? エヴァンシュカは? 何でこんなゲームに出てこなかった女が皇子の婚約者になってんのよ。
「あ……ごめんなさい、自己紹介もしないで、一方的に……わたくしは――――」
謎の女は何かを言いかけたけど、聡明な私はその瞬間ピンと来たわ。だから言ってやったの。
「――アンタ転生者ね!? しかもヒロインのものを横から掠めとるだなんて最低だわ! 恥を知りなさいよ!!」
そうよ、私1人が転生者とは限らなくない? つまりこの謎の女も前世の記憶もちの転生者で、しかもヴィンセント狙いだった。だからエヴァンシュカが婚約を結ぶよりも先に皇子と婚約したんじゃないかってね。
こんな楽しい世界に生まれて、好き放題したくなる気持ちは私にもよく分かるわ、でもね。
さすがにゲームの舞台が始まる前に事を起こすのはズルなんじゃない? そんなの、ゲームのエヴァンシュカと変わらないぐらい卑怯だわ。
だって、私は何だかんだでゲームが始まる16歳まで待ったのよ?
会おうと思えば、入学式よりも前に攻略キャラ全員と会うことだってできたけどしなかった……それは私なりのゲームに対するリスペクトだったの。
いや、そりゃあ入学した後は好き勝手やって新規ルートも開拓してやろうとは思ってたけど、でもこの世界観をメチャクチャにしたくなかった。
なのにこの女と来たら頭悪すぎ、マジで自分の事しか考えてないのね。
――――だってそんなの、アンタはヒロインに生まれなかったんだから仕方ないじゃない、潔く諦めなさいよ。
わたしが女を詰ったことでモブ共は更に非難の声を上げたけど、そんなもの知ったことじゃないわ。ルール違反をしているのはこの女であって私じゃあないもの。
ただ、すっかり懐柔されてるのかヴィンセントが厳しい目で私を見てくるのだけは正直堪えたわ。
彼は元々ヒロインである私のモノだったはずなのに……どうしてこうなっちゃうのかしら。
こういうの小説で見たことある、どうせ今更もう私のモノにはできないんでしょう? ホント最低!。
「カレンデュラ伯爵令嬢……一体、私の婚約者に何の咎があってそのようなことを?」
「ヴィ、ヴィンセント皇子……わたくしは平気ですわ。きっとわたくしが悪いのです、知らずの内にご令嬢に無礼を働いてしまったのかも……」
「そんなことがあるはずがない、君は誰よりも清廉な人間だ――絶対にありえない、何か思い違いがあるのだろう」
白々しく被害者ヅラする女に、ヴィンセントは「愛しくて仕方ありませ~ん」みたいな甘ったるい表情をして慰めてる。
はいはい、ズルして手に入れた男に可愛がられて良いご身分ですね、モブ女って感じ?
私はもうこれ以上こいつらと話したって無駄だと思って、何も言わずにさっさとその場を去ったわ。
周りに居るモブ共が口を揃えて「挨拶もなしでありえない」「無礼すぎる」なんて言ったって全部無視! 皇子がムリなら他に行くだけよ、あそこまで攻略されてたら略奪なんて絶対にできないもの。
いやマジで腹立つし、あの女の化けの皮だけは絶対に剥がしてやるけど!!
――こうして、私の暗黒の3年間が幕を開けたのよね……。
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