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あの庭園でやたらキレイなお姉さんと出会って、色々あって友達になって……。
キレイなお姉さんこと「アデルお嬢さま」は、ハイドランジアの住人と呼ぶにはあまりに異質な存在だった。
前世の義務教育修了レべル以下の学力で――不自然なほど――停滞しているこの世界において、アデルは聡明すぎたのだ。
まるで俺と同じ「転生者」のような知識、思考力に……「最初の後援者」に似た目。彼女に惹かれるのは必然だった。
今まで俺という存在は、この国にとって異物でしかないと思っていた。
前世の思い出に引きずられて、今世を思いきり楽しむこともできない。
俺のために働き続けた両親はどうなったのだろうか? 体を壊して俺のように死んでいなければ良いのだが。
前世の知識を使ってズルしたところで、周囲に価値を正しく理解できる者は居ない。
まず1番に発明した紙だって、職員は後援者が現れるまで売り物になることに気付いていなかった。
既存の羊皮紙と違い過ぎる製法に肌触り、書き心地から無価値と判断したらしい。
さすがは学問が停滞している国と言ったところか、この国の人間には新たなものを作り出すという考え方が備わっていない。
今あるものこそが至高で、これ以上のものはない。現状に満足しているのだから新しいものは必要ない――と。
そんな環境に押し込められた俺はずっとどこか浮ついていて……まるで地に足がついていなかった。
前世とは違いすぎる生活・文明レベル、停滞した学力レベルから生じる価値観の相違。
誰とどんな会話をしていても、生身の人間を相手にしている感覚が薄かったとも言える。喋る泥人形、意思の希薄なロボットを相手にしているような感覚だ。
……しかし そうして思考を放棄しているくせに欲深さだけは一丁前にあって、ようやく人間味のようなものを感じられたかと思えば、俺は金の亡者に捕らえられただけで終わった。
その点アデルは打てば響くとでも言うのだろうか。
俺の話に熱心に耳を傾けてくれて、しかも理解力も段違いだ。
知らない事柄は理解・納得できるまで自分1人で考え続けるし……放っておいても自力で答えに辿り着くのだから面白い。
下手をすれば俺なんかよりもよっぽど利口だと思う。知らないからこそ考え方の視点や切り込み方が違って鋭いんだろうな。
――その異質さの原因は、どうも彼女の護衛騎士のハイドさんらしかった。
格好いいお姉さんにも、綺麗なお兄さんにも見えるハイドさん。その目はアデルと似ていて――あまりに似ているから、俺はてっきりこの国の高貴な人間は皆、青い目をしているのかと勘違いしたくらいだ――話した感じ、相当な知識人だと思った。
その考え方もやたらと前世風と言うか……とにかく、傍に居ると落ち着く人。
この世界からすれば異質なのかも知れないが、俺にとっては違和感なく会話できる数少ない人物だ。
正直「目」ぐらいしか共通点はなかったが、俺はハイドさんが「最初の後援者」なんじゃないかと疑った。
明らかに性別が違って見えたけど、まあ……「格好いいお姉さん」に見えなくもないしな。
だからハイドさんに俺の部屋を案内してもらっている時、まるで試すように雪之丞だと名乗った。
こんな前世の日本丸出しの名前をした人間は他に居ないだろうし、俺の後援者なら名前を聞けば分かるだろう。――それにもし、雪之丞と正しく発音してくれたなら……今度はチャンスを逃がしたくないと思った。
よくしてくれた礼だって言いたいし……「同郷」の仲間として傍に居たいと思ったから。
――まあ結局ハイドさんはあの時、俺の名を呼ばずにただ「良い名前ですね」としか言わなかったけど。
今思えば、たぶんルディと俺をくっつけるために動いていたんだろうけど、ハイドさんはやたらとガードが堅いというか……俺が踏み込もうとしてもきっちり線引きされてて、全く近付けなかったな。
普通に「本物の男」で、同性の俺からほんの僅かでも好意を匂わされると引く……みたいな気配さえ感じた。
だからなかなか「最初の後援者」とハイドさんが、イコールで結びつかなかったのかも知れない。見た目はともかく話せば話すほど「男」に思えたから。
それはそれで残念だったけど、結果としてルディと仲良くなれたのは僥倖だった。
ルディと過ごす時間は俺にとって、この国に転生して初めて息をしたのではないかと思うほどに心地が良かった。
前世で病死して今世で20数年生きてきたつもりになっていたが――実はずっと死んだままで、ルディと出会って初めて蘇生されるような思いだった。
気付けばルディにどっぷり嵌っていて、身分の差に悩む事もあったけどハイドさんから「男爵位を買えば良いだけ」なんてアドバイスされて。
そこからはもう死のうとか全部終わりにしようとか、思う暇はなかったな。そんな暇があるくらいならさっさと俺の抱える問題を解決して、ルディを迎えに行きたかったから。
……いや、迎えられるのは俺の方だったか?
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