おにいちゃん

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おにいちゃん

もう、あんまり覚えていないほど小さい頃の話だ。 私は、内気な性格でいつも家の庭で遊んでいた。近所には公園があるが、そこはいつも他の子供が遊んでいて、友達がほとんどいない私には、肩身が狭く居心地が悪かった。 私には2つ年上の姉と、5つ年上の姉がいた。 2人とも自我が強くわがままだったが、2つ年上の姉は、よく私と遊んでくれた。 だから、別に友達は要らなかったし、庭で2人で遊ぶことに満足していた。 しかし、そんな日々は続かない。 2つ年上の姉が小学校にあがり、私とは遊んでくれなくなった。 姉は元々、私とは正反対の明るい性格だったため、友達がたくさんできたようだった。 私とは遊んでくれなくなったどころか、次第に私のことを鬱陶しがるようになった。 私が、一緒に遊ぼうと強請ったからだ。 決定的だったのは、 姉が友達を家に呼んだ日だった。 5、6人が集まって、姉と共に庭で遊んでいた。私もその輪に入りたかったが、姉はそれを許さなかった。 「ミユは公えんであそんでて」 この前まで姉と遊んでいた庭に、もう私の居場所はないのだと悟った。 やっぱり公園は嫌いだった。 ひとりの公園なんてもっと嫌いだ。 友達がいない自分が惨めに思える。 ただただ、寂しいのだ。 しかし、姉に公園に行けと言われたのだから、 黙って従う他なかった。 私はひとりで公園に向かった。 案の定、公園には子供がたくさんいて楽しそうに遊んでいた。 ひとりぼっちなのは私だけだ。 泣きそうになるのを堪えて、私は公園の片隅のベンチにすわってひとり俯いていた。 そして、いつの間にか眠りについていた。 「ミユ!ミユ!」 私を呼ぶ声がした。はっと目を覚ますと私の目の前には同い年くらいの男の子がいた。 「だれ?」初めて見た男の子だった。 「僕とお友達になろう。その前に、今日はもうすぐ夕方のチャイムがなるだろう?早くお家に帰り。」 気づけばオレンジ色の空になっていた。 夕方のチャイムがなったら家に帰る。 それが家のルールだった。 私はその男の子に手を振って家まで走った。 次の日、たしか日曜日だった。 私は、ひとりで庭で遊んでいた。 すると、フェンスから昨日の男の子がこちらに手を振っていた。 私は駆け寄った。 「ミユ!公園へ行こう。公園で一緒に遊ぼう。」 私は嬉しかった。友達と公園で遊べる事が。 それから毎日のようにその男の子と公園で遊んだ。一番好きなのはぶらんこだった。私がぶらんこに乗り、男の子は背中を押してくれた。 楽しかった。楽しかったからこそあんまり覚えていない。 ここまではギリギリ私が覚えていること。 多少補正が入っているかもしれないが、だいたいこんな感じだ。 ここからは、母から聞いた話。 ある日、私は庭にぶらんこを作って欲しいと親に頼んだらしい。 滅多に駄々をこねない私が、この時は大泣きしながら乞うたらしい。 そしてものづくりが得意な父親が、手作りのぶらんこを庭に作ってくれた。 それから私はそのブランコに毎日ひとりで乗っていたらしい。 とても楽しそうに、喋りながら。 不思議に思った母は私に聞いた。 「誰とお喋りしているの?」 私は答えた。 「おにいちゃんだよ!」 私が中学生になった時、母はこの話を教えてくれた。そして、私がお腹に宿る前に、男の子の赤ちゃんを流してしまっていたことを。 私のあの記憶の男の子は、お兄ちゃんだったのだろうか。
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