5人が本棚に入れています
本棚に追加
*
そのまま、私はネオンの輝く夜の繁華街を走り続けた。
脳裏に焼きついた彼女の映像をかき消すように。彼女の心地よい囁き声を、雑踏の音で上書きするように。
なのに、道の先まで並んでいる青白い街灯が彼女の瞳の色と重なって、記憶は消えるどころか、余計に鮮明さを増していく。
——みんな、こんな時間まで付き合ってくれてありがとうね。
彼女の声がどこからか聞こえてくる。
でもこれは、幻聴なんかじゃない。鞄の中だ。声は鞄の中から、はっきりと聞こえてくる。どうして。スマホの動画は止めたはずなのに。
——よかったら、みんなも一緒に祈ってみてね。毎晩こうしてると、気持ちが明るくなるんだよ。
ううん、違う。
あれは祈りなんかじゃない。
呪い、だ。
小学校の頃から、彼女は私たちを呪い続けていたんだ。
私たちが彼女の存在を忘れている間も、ずっと。きっと、一日も絶やすことなく。
でも、だからって。
そのせいで舞香と桃奈が死ぬなんてこと、ありえない。
「うっ!」
不意に横から強い衝撃を感じ、吹き飛ばされるように路上に倒れた。
顔を上げると、歩道の先に一人の女性が立っていた。
背後の街灯が影を作り、彼女の顔を隠している。すらりとしたシルエット。彼女がここにいるはずがない。でも、彼女はここにいる。頭がそう確信する。ああ、これは。
生霊。
不意に頭の中にそんな単語が浮かび上がり、気づくと私は懇願していた。
「ごっ、ごめんなさい……! 軽い気持ちだったの……。麗衣子がそんなに傷ついてるなんて思わなかった。ずっと私たちのことを考えていたなんて、思わなかった。ごめんなさい。お願い、許して……!」
体を起こそうしたけれど、それは叶わなかった。
下半身が動かないのだ。見ると、闇夜に真っ白な腕が浮かび上がり、私の足首を掴んでいた。華奢で細い、女性の指。爪は、ラメの入った薄紅色。
それが、彼女の動画で紹介されていたマニキュアの色と一致していると気づいた瞬間、私の体は宙を舞っていた。
最初のコメントを投稿しよう!