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「……私の、シャーペン」
思わず顔を上げた。
「え?」
「待って。なんで、私のシャーペンがあそこに……」
桃奈の視線を追う。画面の左隅に見える、ガラスのローテーブルの上だ。
そこに、一本のシャーペンが置いてあった。
よく見ると、たしかに見覚えがある。ノックボタンの上にペンギンのキャラクターがついた、安っぽいシャーペン。
桃奈が小学生の頃使っていたものがあんな感じだった気がする。
「……平川、麗衣子」
桃奈の口から、久しく聞いていない単語が漏れた。
思わず顔を見ると、桃奈はどこか青ざめた表情をしていた。
「この人……REIって、麗衣子……なんじゃない?」
声が震えている。
私は桃奈の顔と、画面の中のREIを何度も見返した。
「……え? だって……全然違うじゃん。体型も、顔も」
平川麗衣子。小学五年生から卒業まで同じクラスだった、物静かな生徒だった。
気弱で、引っ込み思案で、いつも昼休みはひとり本を読んでいた。卒業アルバムに載せられたアンケートの、〝クラスで優しい人ランキング〟にすら名前が上がらない、卒業と同時に存在を忘れてしまうような、そんな生徒。
体型は、小太りだった。
「でも、REIってダイエットしてたんでしょ。体型は変わってるはずだよ。今はカラコンもしてるし眉毛も整えてるけど、よく見たら似てるって」
画面を凝視した。
言われれば、面影がないこともない。けど。
「……でも! 空似でしょ? シャーペンなんて、似たようなのどこにでも売ってるし」
「よく見てよ。あのシャーペン……うちらのプリ貼ってある」
スマホを手に取り、顔を近づけた。
たしかにシャーペンの軸の部分、プリクラのような、小さなシールが貼ってある。
それでも認めたくなくて、よく見えない、と反論すると、桃奈は急に立ち上がった。
「……私、帰る」
鞄を手に桃奈がカフェを出る。私は呆然と、その姿を見送った。
画面に目を戻すと、REIが汗を光らせながらトレーニングの効能を語っていた。その笑顔がなぜか、歪んで見える。
その夜、私は彼女をブロックした。
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