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ある日、家が燃えた。全焼だった。メラメラと燃えさかる炎と共に、母と父は私達姉弟を置いて、遠い所へ逝ってしまった。
あの日、母は弟に覆い被さり、死亡した。しかし、弟は全身が丸焦げ状態で病院に搬送された。まだ呼吸はあるようだが、意識が戻らない。
あの日、父の下半身は崩れた瓦礫の下敷きになり、身動きが出来なかった。
「お父さん!お父さん!」
そう叫ぶ私は無力だった。徐々に燃えてゆく父の身体を引っ張るもびくともしない。やがて火は私の身体にも燃え移り始めた。
「春香…お前だけでも…早く…」
それが私の脳に残った父の最期の言葉だった。
私は全力で駆け抜けた。家を出た頃には、大勢の人間が家の前に集まり、私を見ている。
見慣れないその光景に、私はふわふわとした感覚を覚えた。周囲からは、不思議な生き物を見ているような視線を浴びた。
私は背後を振り返った。様々な思い出が、あの炎にやって焼き尽くされてゆく。その記憶は、ゆっくりと時間を掛けて紡いできた尊い記憶、それら全ての思い出が今まさに消え去ろうとしている瞬間だった。
「おい!大丈夫か!?」
一人のおじさんが私の肩を揺すり、声を掛けてくれる。
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