社畜OLと喋る猫

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「うまっ! うまっ!」  猫はむしゃむしゃと私が作ったご飯を口にかきこんだ。  作ったと言っても、茹でたササミとカリカリを混ぜ合わせただけだけど。 「そんなにおいしいですか?」  猫はニカッと笑った。 「うまいで! あんたぼーっとしてると思うてたけど、料理作るのはうまいな!」  一言多い。  素直に褒められないのか。  そのとき、グ〜と私のお腹が鳴った。 「なんやあんたも腹減ったんか?」 「いや、別に」 「照れんでええやろ! 一緒に食おうや。まだササミ余っとるやろ?」 「いえ、私は……」  断ろうとすると、 「わしと一緒に食うのはそんなに嫌か……?」  猫はうるうるとした瞳で私を見上げていた。  やめろよ。  なんで良心が痛むような顔を向けるんだよ。 「ゔっ。わかりましたからそんな顔で見つめないでください」 「ホンマか! ほな食え食え!」  猫はぱあっと嬉しそうに顔を輝かせた。  自分のことみたいに喜ぶなんて変な猫だ。  私はクスリと笑った。 「いただきます」  私はササミを一口食べた。 「どや?」  猫は心配そうに私を見つめていた。 「おいしいです」 「そうやろ!」  猫はなぜか自慢げな顔だった。  ササミを茹でたのは私なのに。 「ほらもっと食えや!」  猫に促されて私は少しづつササミを食べ続けた。  そのうち白飯も欲しくなり、以前買っていたレトルトのご飯をレンジで温めて、一緒に食べた。  なぜだろう。  今日は食欲がある。  それに、久しぶりに食べたご飯はすごくおいしく感じた。  前は食事といえばただ流し入れる作業でしかなかったのに。 「ど、どないしたん?」  猫の動揺した声が聞こえた。 「えっ?」  気がつくと、私の目から涙がこぼれ落ちていた。 「なんで私、泣いて……」  自分でもどうして泣いているのかわからなかった。 「はあ……。ほんま手のかかる奴や」  猫はいつのまにかテーブルの上に登っていて、私の涙をペロリと舐めた。  猫の舌はザラザラしていたけど、とても温かく感じた。 「うっ……」  私は余計に涙が溢れ出て、嗚咽まで漏れ出した。  猫はギョッとして、 「なんでさらに泣くねん!?」  と、ツッコんだ。 「うっ……、ず、ずみません」  私が謝ると、猫はヤケクソのように叫んだ。 「しゃあない……ほな、これでどや!」  猫は尻尾を私の頬に当てた。  尻尾はふわふわとして柔らかかった。 「わいの毛並み気持ちええやろ。特別にスーハースーハーしてええで」  猫はごろんと仰向けに寝転んだ。  んぐっ!  か、かわいい。  不覚にもそう思った。  それにお腹の毛がものすごく柔らかそうだ。  私は我慢できず猫のお腹に顔を埋めた。 「ふあぁ……」  何だこれ。  思ってた以上に毛並みがふわふわだ。  安心するいい匂い。  信じられないくらい癒される。  それから私はしばらくの間、猫のお腹に顔を埋めた。 「元気出たか?」  私が猫のお腹から顔を離すと、猫は起き上がり、伸びを取った。 「はい。かなり」 「さよか。それはよかった。ご主人が毎日丁寧に手入れしてくれた自慢の毛並みやからな」 「ご主人? ということは猫さんは飼い猫なんですか?」 「数日前まではな」  私は首を傾げた。 「どういうことですか?」  猫は視線を落とした。 「ご主人は二日前に自殺したんや」  思いもしなかった猫の告白に、私は言葉が出なかった。
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