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~序~
(頼光さま! ……頼光さま!!)
綱は祈った。
主の名を、何度も呼び。
わずかに残された、光に手を伸ばし、捕まえた!
「……痛ってぇ……あれ? ここは?」
転げ落ちた路は、石の上? 神社仏閣に敷き詰められた石畳……とは違う。
境目も見えない、大きな一枚岩で道全体が覆われている。
「……なんだ? ここ?」
こんな大きな岩で覆われた路など、聞いたことも見たこともない。
少なくとも、都では。
「……っつ……」
投げ出された拍子に、左肩をぶつけたらしい。立ち上がろうとして腕をついた瞬間、痛みが走った。
「君? 大丈夫?」
肩をさすってうめいていると、誰かが声をかけてくれた。
「あ、大丈夫。こうして静かにしていれば……え?」
「とっても痛そうだよ。見せてごら……君、珍しい格好だね」
それは、自分の言葉だ、と綱は思った。
まるで、下働きのような、短い袖の単衣と、布の少ない袴。なのに、その単衣の生地は艶があり、色も抜けるように白い。袴は、高位の僧侶が纏う墨染よりもさらに深く黒い。
そして。
「……頼光さま? え? その髪の毛!? なんでそんな恰好? それに、なんか、顔も黒い……?」
「へ?」
「へえ? 君、どこの神社の子? 今時、こんな本格的な水干、映画かドラマでしか見ないよ」
もう一人、同じように高級な生地と染のボロをまとった青年が、綱の袖を無造作に引っ張る。
とたん、痛みが走って、顔をしかめた。
「こら、斎! 痛がっているんだから丁寧に触れよ。こんな小さい子が、かわいそうだろ?」
綱をかばって、最初の青年が、もう一人を叱り飛ばす。
(……頼光さまじゃ、ない? それに、すごく優しい……でも、頼光さまだって、本当は優しいし……)
自分をかばう青年の笑顔に安心して、綱は緊張の糸が緩み。
「え? 君!? ちょっと!!」
突然、人事不省に陥って、自分の腕の中に倒れこんできた少年にむかって、青年は……遠野和矢は声を張り上げる。
20××年のある夏の日。
平安朝から降ってきた、一人の少年が異郷で出会ったのは、主そっくりの超絶美形だった。
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