3人が本棚に入れています
本棚に追加
~平安京での出来事~
その日、頼光の使いで右京二条のはずれにあるとある屋敷に出向いていた綱は、思いがけず歓待を受けて、すっかり帰りが遅くなってしまった。
泊まっていくようにと勧められたが、流石に心苦しく、まだ日没前だったこともあって丁重に辞退し、帰途に着いた。
「ああ、うまかったな。栗の甘葛煮……」
甘味の少ないこの時代の最高級スイーツと言っても違いない、甘葛で煮込んだ、これまた甘味の代表格ともいえる栗……貴族であっても滅多なことでは口にできない高級品を、惜しげもなく供したのは、都のはずれとはいえ大きな屋敷を構える物持ちの受領で。
以前、命を救われた礼をしたいと頼光を招待したのだが。
「まあ、物忌みとか言い訳して、行かなくて正解だったよな。頼光さま」
礼を失しないよう、詫び状も携えて頼光の名代で訪れた綱を丁重にもてなしてはくれたものの、明らかに当主は落胆していた。
どうも、自分の娘を頼光に目合わせる思惑があったらしい。
身分的には十分釣り合いが取れるので、逆に断る口実が見つけづらかったのだろう。
早い話、幼い見た目の(もっと言うと対象外の)綱に体よく丸投げして、バックレたわけであり。
「……なんか、可愛い娘っぽかったから、もったいなかったかも」
当主もなかなかに腕自慢で、頼光の腕前にすっかり惚れ込み、何とか婿に迎えたいと強く願っているようだった。綱への歓待は「今後もよろしく」という意味も込められていたのだろう。
『よければ、次は領地で芋粥でも』と頼光を誘ってほしいそぶりを見せていたが。
「……金時だったら、あっという間に落とされていたな。俺で良かった、良かった」
空気の読めない童を装って、その意図に気がつかないふりをしてやり過ごした。
「でも、芋粥か……くぅ、うまそう。頼光さま、とりあえず会うだけでも会ってみればいいのに」
……金時でなくて良かった、と言いつつ、しっかり篭絡されている綱であった。
※当主のモデルは藤原利仁。時代が合わないですけどそこはご愛敬で。
最初のコメントを投稿しよう!