タイムスリップ! 綱くん!

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 そんなことをつらつらと考えながら歩いているうちに、日が暮れてきた。 「マズイ、早く帰らないと」  松明の一つも借りてくればよかった。  少し後悔しながら、綱は歩調を速める。  少しでも早くたどり着こうと路地裏に入り……再び後悔することになった。    まだいくらか残っていたはずの夕日の影が、突然消えた。    ぞわり。    首筋がチリチリする、見知った感覚。  初めてではない、だからといってそうそうお目にかかりたいものではない、あやかしの気配。    念のため帯刀はしているが、多くはない経験からも、一人で向き合うには危険だと感じた。    逃げるが勝ち!  脱兎のごとく、来た道を引き返そうと身をひるがえす、が。   【逃がさないよ……】    耳に届いた、音ではない、声。    人語が使える、と言うことは、力のあるあやかし、鬼である可能性が高く……本気でマズイ!    そう判断するより先に、足にまとわりつく、闇の触手。    無我夢中で太刀を抜き、触手を切り離そうともがく。   【そんなもの、我には通じぬわ】  聞こえないのに、ほくそ笑む様子が伝わってくる。同時に、綱を襲う恐怖。   「やめろ! 離せ!」    太刀を手に、見えない敵の本体を探して、睨みつける。    我知らず、綱の目に光が灯る。 【これが、……を制した力……だが、させぬ!!】  光を帯び始めた太刀を持つ綱ごと、闇が包み込む。 (ぐぅっ! このままじゃ、闇に飲み込まれる!! ……頼光さま!!)  言い知れぬ恐怖と喪失感……綱は、思わず主の名を呼び、祈った。何度も。   (頼光さま! ……頼光さま!!)    闇に包まれ、どんどん失われていく光。   その中に、一点、輝く光が見えた。    綱は、必死に、その光に腕を伸ばし……指先に触れた、と思った、その刹那。        世界は、暗転した。
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