夢の中に二人

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夢の中に二人

「先生と一緒なんて、本当に最低な状況ですね」 小高い丘を登る途中、僕たちは季節も、どの国に存在するのかもわからない夕暮れと夜とが入り混じったまさに〝夢のように〟美しく幻想的な空の風景を望んだ。ついでにその風景の元、夢亜(めあ)さんは僕の姿を見るなり盛大な舌打ちをした。 丘の上で休憩をしていたのであろうカラスたちは、その盛大さに驚いたのか一斉に飛び去っていく。 「それで、先生はどうしてこんなところに?」 飛び立つカラスの群れを見送りながら、色白な肌と不釣り合いなぐらい真っ黒のワンピースを着た夢亜さんは僕に問いかけた。 「ええ、まぁ、諸事情で……」 曖昧な答えで頭を掻く僕に、夢亜さんはさぞかし不満そうな表情でふぅん、と鼻を鳴らした。 「大人の事情っていうやつですか」 ずるいですね、と続けながら夢亜さんはずんずんと丘の上っていく。 その背中を、僕は置いてかれぬようネクタイ緩めて、慌てて追いかける。 丘を登り切ったところからは、昔、僕が幼い頃に住んでいたような団地がひしめき合う、何とも混雑した景色が見えた。 幻想的な空の風景とは対照的で現実的なそれに、何とも言えない不釣り合いさを覚えて、僕は、なんだか不思議の国でも迷い込んだような戸惑いを感じた。 けれど、〝夢〟というものはそのように不思議で時に理屈が通らない、不安定なものなのだ。 僕は夢の専門家ではないが、特にに少女の夢というのはそういった傾向が高いと論文を読んだ気がする。 単的に説明すると、僕は今、そんな不安定な夢亜さんの夢の中にいる。 そのため、眼下に広がる風景の不一致さも、やはり妥当な事なのだと理由を付けて、僕は一人、無理やりに今の状況を受け止めようとした。だが、正直、内心ではどうしてこのようなことになっているのか、さっぱりわからない。 なぜ、団地なのか。確か夢亜さんの家は、普通の一軒家の筈なのに、何か団地に思い入れが? そんな事を考えている内に、夢亜さんがはぁっとため息を漏らした。 「何もかも、ごちゃごちゃってことですか」 「ごちゃごちゃ?」 「一種の夢診断ですよ。ごちゃごちゃした街を見下ろすのは、考えがまとまらない状態を表している」 興味ないですかそういうの、と言われて、なんと答えて良いかわからない僕はまた、嫌われる事を覚悟して曖昧に頷いて見せた。 「まぁ、いいですけど。とりあえず〝次の夢〟に移らないと」 そう言って、夢亜さんは丘の上のそれを指さした。 それは、窓だった。 大人一人が屈んで潜れそうな程の大きさのその窓は、一つ、ぽつりと丘のてっぺんに浮かんでいるのであった。 「これを通ると次の夢にいけるのかい?」 「はぁ、先生、ちゃんと説明を聞いてなかったんですか」 呆れたように息を吐いた夢亜さんに急かされて、僕はその窓を潜り抜けた。
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