死亡希求夢症候群

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死亡希求夢症候群

その病名には、まだ,正式な病名は付いていない。だが、僕はその病に関して、まるで御伽噺のようだと思った。 研究者は、あくまでも仮として、その症状を〝死亡希求夢症候群〟などと診断するようにしていた。 研究はまだ十分に行われていないが、それを発症する理由ははっきりとしている。 〝死亡希求〟という名の通り、自ら死を望む事。そういった自殺願望や、希死念慮を持つことをきっかけに、その者は深い眠りについてしまう。 深い眠りというのは、謂わゆる仮死状態に近いものであるらしいが(排泄や食事なども自力では困難になるらしい)、ある実験結果によるとそのような状況の中で被験者は、〝夢〟を観続けていることが明らかとなっている。 これが〝夢症候群〟と名のついた特徴である。 つまり、〝希死念慮〟と〝夢〟。 これらを同時に持つ事が、この病の最大の特徴であると言える。 その病を治す治療法はまだ試験段階であるが、一つだけ最も効果的な治療法が挙げられている。 それは、患者の〝夢〟に第三者が介入する事である。 ある装置で脳と脳の神経を繋いで(この辺は専門外のため詳しくわからないが)、第三者が患者の夢の中へと侵入し、夢を渡る中で患者が死を抱くきっかけとなった出来事を解明する。 そうすることによって患者は目覚めるのだと、この研究の専門家である斎藤紬(さいとうつむぎ)氏は、そう述べている。 ありえない。 最初は、実際の実験結果を見てもそう思った。そのため病状も治療法も僕にとっては、まるで御伽噺のような話にしか思えなかった。 だが、僕は幾つもの論文を読み進めていくうちに、その治療法にかけるしかないと思った。 夢亜さんを救うためには、その方法しかないのだと、そう思ったからだった。
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