一夜の過ち

9/22
前へ
/186ページ
次へ
画面を見ると我妻 玄栄の名前でコンクールのグランプリ受賞だの、注目の若手写真家だの、華々しい情報が羅列されていた。 顔写真を見ると、サイドを刈り上げた大胆な水色髪だったり、ピンクのロングヘアだったり様々だった。 だけど、どの写真も顔は間違いなく目の前にいるクロエさんと同じ顔。 「我妻氏のスタジオChloe(クロエ)」と紹介されている写真も、ここと全く同じ間取り。 よく見ると、プロフィールには俺が通っている学校と同じ学校名が書かれていた。 クロエさんは無言で名刺を差し出した。 半透明の名刺には、白文字で名前と連絡先が記されている。 辛うじて読める線の細い筆記体が、クロエさんの姿と重なって見えた。 住所は俺の自宅から一時間もしないほどの距離。 「部屋は使いたい部屋を使って」 「アオちゃんいるなら、あたしも泊まりたい」 「こら、あずさ。僕達この後、打ち合わせが入ってるでしょうが」 リキさんがそう言うと、あずささんは小さくチェッと言った。 二人が手早く帰る準備を整えてクロエさんが送り出すと、この広い家のなかに俺とクロエさんの二人きりになってしまった。 ――沈黙が重い。 なにを話そうか迷っていると、スタジオの隣にあるリビングへと通された。 床も壁も天井も、すべて黒で囲まれたリビングには、大きな真っ黒の革張りソファーとガラスのテーブル。 奥には、高級そうなお酒がいくつも並ぶバーカウンターがあった。 ワイングラスハンガーに掛けられたグラスは一点の曇りもなく、無数に並ぶウイスキーなどのボトルは、すべてきちんと手前にラベルが向けられている。 カウンターの更に奥にはワインセラーらしき物まで見えた。 家というより、まるでホテルのバーだ。 呆然と立ち尽くしていると、クロエさんは勢いよくソファーにダイブして大きく息を吐いた。
/186ページ

最初のコメントを投稿しよう!

152人が本棚に入れています
本棚に追加