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画面を見ると我妻 玄栄の名前でコンクールのグランプリ受賞だの、注目の若手写真家だの、華々しい情報が羅列されていた。
顔写真を見ると、サイドを刈り上げた大胆な水色髪だったり、ピンクのロングヘアだったり様々だった。
だけど、どの写真も顔は間違いなく目の前にいるクロエさんと同じ顔。
「我妻氏のスタジオChloe」と紹介されている写真も、ここと全く同じ間取り。
よく見ると、プロフィールには俺が通っている学校と同じ学校名が書かれていた。
クロエさんは無言で名刺を差し出した。
半透明の名刺には、白文字で名前と連絡先が記されている。
辛うじて読める線の細い筆記体が、クロエさんの姿と重なって見えた。
住所は俺の自宅から一時間もしないほどの距離。
「部屋は使いたい部屋を使って」
「アオちゃんいるなら、あたしも泊まりたい」
「こら、あずさ。僕達この後、打ち合わせが入ってるでしょうが」
リキさんがそう言うと、あずささんは小さくチェッと言った。
二人が手早く帰る準備を整えてクロエさんが送り出すと、この広い家のなかに俺とクロエさんの二人きりになってしまった。
――沈黙が重い。
なにを話そうか迷っていると、スタジオの隣にあるリビングへと通された。
床も壁も天井も、すべて黒で囲まれたリビングには、大きな真っ黒の革張りソファーとガラスのテーブル。
奥には、高級そうなお酒がいくつも並ぶバーカウンターがあった。
ワイングラスハンガーに掛けられたグラスは一点の曇りもなく、無数に並ぶウイスキーなどのボトルは、すべてきちんと手前にラベルが向けられている。
カウンターの更に奥にはワインセラーらしき物まで見えた。
家というより、まるでホテルのバーだ。
呆然と立ち尽くしていると、クロエさんは勢いよくソファーにダイブして大きく息を吐いた。
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