152人が本棚に入れています
本棚に追加
「そんなに警戒しなくても。
取って食べたりしないし」
「はぁ……」
「まだ本調子じゃないでしょ。
朝から撮影ぶっ通しで、いまならオレの方が非力だし」
だから安心して、とでも言うように軽く手招きされ、つい反射的にソファーに座った。
せめてもの抵抗として二席ほど開けて座り直してみるけれど、なんだか負けたような気分になった。
「今日は撮影する気ないし、ゆっくり荷ほどきしたら?」
荷ほどき……それはつまり、ここで俺が暮らすということ。
戸惑いを察したように、クロエさんが口を開く。
「オレの事、信用できない?」
「えっと……クロエさんがすごい人だっていうことは、わかりました」
「すごい、ねぇ」
他人事のように宙を見て、煙草を軽く噛む。
「バイトに困っているのは事実です。
でも被写体とか、その……人肌恋しくなったとき、とか……。
意味が、わからないんですが……」
人、肌、恋しい
ただの単語の集合体だとわかっていても、口にするのは躊躇ってしまう。
クロエさんは急にむくりと起き上がると、近寄ってきた。
細い首に開いた、ヴァンパイアの噛み跡のようなピアスに目を奪われてしまい、逃げるタイミングを失ってしまう。
この人には、いくつピアスが開いているのだろう。
最初のコメントを投稿しよう!