152人が本棚に入れています
本棚に追加
「生理的にオレが無理? 触りたくも、触られたくもない?」
「いや、そういうわけじゃなくて……」
考えるよりも先に口が動いてしまった。
予想外の言葉にクロエさんは目を見開くと、フッと微笑んで煙草を燻らせた。
発してしまった言葉は、もう回収出来ない。
「でも、どうして俺なんですか。
クロエさんなら、もっと良いモデルが簡単に見つけられると思うんですけど」
自分程度のモデルなんて、どこにでもゴロゴロいる。
背が高いだけで、特別に容姿が整っているわけではない。
自分の身の程を知らないほど愚かでも、幼くもない。
クロエさんはまだじゅうぶんに残っている煙草を消すと、じっと俺を見た。
身動き出来なくなってしまうくらいの強い視線。
「アオイを撮りたい……って思ったから。
じっくりと、たくさん」
爪先から指先、鎖骨の窪みに、首筋――。
身体中のすべてのパーツを一つ一つ、丁寧になぞるように視線を這わされる。
その視線に性的な意味は含まれていなくて、観察や鑑賞の類に近い。
そうわかってはいるけれど、身体のラインをなぞっていく視線に、身体が熱を帯びる。
冷たい部屋のなかで汗が喉を伝い、握りしめたペットボトルはぬるくなっていく。
視線で捕らえられた身体は言うことを聞かず、声の出し方すらも忘れる。
どうにか「やめて」と言葉を絞り出そうとすると、ニャアという鳴き声が聞こえた。
最初のコメントを投稿しよう!