152人が本棚に入れています
本棚に追加
真っすぐ家には帰りたくなかった。
とてもあのままでは帰れなかった。
お酒でも飲めば楽になれるんじゃないかと思った。
どうしたらいいか、すでに機能を失っている脳を働かせたけれど、自分の知っている合法的で、いますぐにとれる手段は飲酒だけだった。
味も、よさも、まだたいしてなにもわからないけれど……。
少しの間でもよかった。
十年重ねてきた想いをどうにか出来るなら、なんだってよかった。
どうだっていい。
どうなってもいい。
ぐちゃぐちゃになって、楽になってしまえるのなら……。
幼い頃から、ずっと茉莉香のそばにいたのは俺だった。
茉莉香の初恋には、本人よりも先に気が付いた。
茉莉香が片思いの相手にバレンタインチョコを作れば、俺が味見係を任された。
ラブレターの添削まで頼まれた。
渡せなかった、と涙ぐむ茉莉香を俺が励ました。
それが、俺と茉莉香の関係だった。
大学で出来た、はじめての彼氏の話は、笑顔で聞いた。
よかったね、おめでとう。
デート優先していいからね。
俺と茉莉香は、家もすぐ隣なんだからさ。
大丈夫、俺も学校の課題でバタバタしてるし。
気にしないで、彼氏を優先していいから。
いつか茉莉香に彼氏が出来た時の為に、と用意していた台詞を一気に吐いた。
――大嘘吐きだ。
もし俺が男だったら、茉莉香は俺を好きになってくれだろうか。
それとも俺が茉莉香を好きにならなければよかっただろうか。
"もし"とか、"たら"とか、"れば"とか。
そんなものは役にも立たない。
考えたって余計に首を絞める。
非生産的なことばかり考えて、結局最後はいつだって自己嫌悪。
いい幼馴染みの振りをして、中身は独占欲でどろどろで、笑顔で茉莉香を欺いている。
最初のコメントを投稿しよう!