一夜の過ち

17/22
前へ
/186ページ
次へ
真っすぐ家には帰りたくなかった。 とてもあのままでは帰れなかった。 お酒でも飲めば楽になれるんじゃないかと思った。 どうしたらいいか、すでに機能を失っている脳を働かせたけれど、自分の知っている合法的で、いますぐにとれる手段は飲酒だけだった。 味も、よさも、まだたいしてなにもわからないけれど……。 少しの間でもよかった。 十年重ねてきた想いをどうにか出来るなら、なんだってよかった。 どうだっていい。 どうなってもいい。 ぐちゃぐちゃになって、楽になってしまえるのなら……。 幼い頃から、ずっと茉莉香のそばにいたのは俺だった。 茉莉香の初恋には、本人よりも先に気が付いた。 茉莉香が片思いの相手にバレンタインチョコを作れば、俺が味見係を任された。 ラブレターの添削(てんさく)まで頼まれた。 渡せなかった、と涙ぐむ茉莉香を俺が励ました。 それが、俺と茉莉香の関係だった。 大学で出来た、はじめての彼氏の話は、笑顔で聞いた。 よかったね、おめでとう。 デート優先していいからね。 俺と茉莉香は、家もすぐ隣なんだからさ。 大丈夫、俺も学校の課題でバタバタしてるし。 気にしないで、彼氏を優先していいから。 いつか茉莉香に彼氏が出来た時の為に、と用意していた台詞(セリフ)を一気に吐いた。 ――大嘘()きだ。 もし俺が男だったら、茉莉香は俺を好きになってくれだろうか。 それとも俺が茉莉香を好きにならなければよかっただろうか。 "もし"とか、"たら"とか、"れば"とか。 そんなものは役にも立たない。 考えたって余計に首を絞める。 非生産的なことばかり考えて、結局最後はいつだって自己嫌悪。 いい幼馴染みの振りをして、中身は独占欲でどろどろで、笑顔で茉莉香を(あざむ)いている。
/186ページ

最初のコメントを投稿しよう!

152人が本棚に入れています
本棚に追加