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バックがキャリーケースで良かった。
石畳の道で良かった。
タイヤの転がる音が、思考の遮断を手助けしてくれる。
茉莉香のサンダルのヒールが石畳の隙間に引っ掛かって歩きづらそうで、肩を貸したかった。
今までだったら簡単に、つかまりなよ、と言えたのに。
歯がゆさと、何も気付かないで歩いている男への苛立ちで、キャリーケースを握る手はどんどん強くなっていった。
どこかのイタリアンレストランに入ると、当然の様に男は茉莉香の隣に座り、俺は茉莉香の向かいに座った。
白いワンピース、夏っぽくて良いね。
サーモンピンクのグロスも似合ってるね。
そう思ったけれど、口には出さなかった。
だって全部、この男とのデートの為に選んだもの。
白いワンピースは、この男の好み?
そのツヤツヤの唇でキスするの?
腐った俗っぽい考えが止まらないどころか、加速をつけて悪化していく。
やっぱり自分は、茉莉香を穢しているんだ。
赤と白の大きなブロックチェックのテーブルクロスの上に置かれた、Amore Pastaと店名がプリントされている紙ナフキンすら憎らしく見えてきた。
なにが愛だ。
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