一夜の過ち

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メニューの中から目についた"シェフの気まぐれパスタ"だとか、そんな名前のパスタを適当に選ぶと、店員はランチセットを勧めてきた。 「セットに付いている、なめらかビシソワーズが当店の人気メニューとなっております」 親切な顔をして、ポップで弾むような書体で「おすすめ♪特製ビシソワーズ」と書かれたメニューを指差す。 どうせ味もしないし、何も感じない。 なめらかだろうと粗々(あらあら)しかろうと、なんだって、どうだって良い。 注文が出てくるまでの間、"幼馴染みの彼氏に会った時の質問"として模範的な質問をした。 2人は何がきっかけで知り合ったんですか。 第一印象はどうでした。 デートはどこに行ったんですか。 茉莉香の家族には会った事ありますか。 茉莉香から聞いていた事も質問してしまったかもしれないけど、聞いたかどうか思い出せるほど余裕はなかった。 ヘラヘラと照れながら嬉しそうに答える男は、心底気持ち悪かった。 俺はどうしてこんな事を訊いて、どうしてこんな事を聞かされてるんだろう。 お願いだから、この男の隣で一緒になって嬉しそうな顔をしないで。 何度も何度も、心の中で茉莉香に懇願(こんがん)した。 だけど当然そんな願いは届かなくて、茉莉香はずっと少しはにかむように笑っていた。 そんな顔、するんだね。 やっと出てきたパスタは、やっぱり何の味もしなかった。 "気紛(きまぐ)れ"なんて付いたパスタを選んだせいかもしれない。 2人と別れた後、バイトのドタキャンの連絡を受けた。 いよいよ行き場はどこにもなくなった。
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