二者の契約

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「ひどい事を言った。 アオイの、その人への気持ちっていうか、そういうものを馬鹿にしたような……」 茉莉香の名前を出さないで、"その人"と言ったのは、クロエさんなりの気遣いなんだろうか。 「周りが見えなくなると、ああなるみたい……って、これも言い訳か。 とにかく、契約破棄されても仕方ない事をしたと思う」 「……破棄して、良いんですか?」 そう聞くと、クロエさんは顔を上げて俺を見た。 でも、ぼんやりとした(から)っぽな眼が見ているのは、きっと目の前にいる自分じゃない。 「今夜はもう遅いから。 明日、返事を聞かせて」 長くも短くもない()が空いて、その眼はやっと自分を見た。 きっと、帰れないほど遅い時間じゃない。 電車は、まだあるだろう。 お金はかかるけど、タクシーだってある。 広い家だけど、玄関の場所もわかってる。 手足を拘束されているわけでもない。 でも。 外はもう暗いから。 泣いて疲れたから。 クロエさんが、明日と言ったから。 ――だから、明日にしよう。 ここにいる事を選んだ理由は、ちゃんとある。 自分にそう言い聞かせて、眠りについた。 何度か目は覚めたけど、それでもいつもより眠る事が出来た。
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