二者の契約

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b75c617c-1fae-48d8-ad4a-4ef58a8f66e9 あずささんが言っていたゲストルームは、予想を遥かに超えていた。 一人で寝るには贅沢過ぎるサイズのベッドには(なめ)らかなシルクのシーツ。 4人暮らしの実家のソファーよりも大きなソファー。 大理石のテーブルに広いバルコニー。 シャワールームまであった。 しかもゲストルームは一室だけじゃなく、他にもあると言う。 「オレの部屋から一番離れたゲストルームだから」 クロエさんはそう言って案内したけれど、そもそもクロエさんの部屋がどこなのかも知らない。 地下のベッドルーム、真っ白なスタジオと真っ黒なリビング。 大理石のバスルームに、ヴィンテージ家具で統一されたリビングダイニングキッチン。 この家には、まだ他にも開いていない扉がたくさんある。 顔を洗いながら昨日、一昨日の事を思い出してみると、たった2日の間の出来事なのに何もかもが目まぐるしくて、すべてが自分に起きた事だと思えなかった。 でもこれは現実で、足元には俺を起こしに来た、ちぃちゃんもいる。 一か月の契約、か―― ちぃちゃんとじゃれ合っていると、若い男の人の声と騒々しい音が聞こえた。 音のする方へ行くと、クロエさんとオレンジっぽい茶色の髪をした男の人がいた。 おそらくカメラの機材を手にして、男の人は「どうしよう、どうしよう」と何度も言いながら、せわしく出したり仕舞ったりしている。 クロエさんはまったく顔色を変えず、手際よくまとめていた。 陽に当たるグラデーションの髪は真っ黒なシャツに映えて、下唇には昨日外したピアスが付けられていた。 ちぃちゃんが足元で鳴くと、目が合った。 「おはようございます…」 「おはよう。 冷蔵庫、見て」 それだけ言うと、2人はバタバタと出て行った。 正確にはバタバタしていたのは男の人の方だけだったけれど。 去り際に、男の人はチラっとこちらを見て、愛嬌のある顔で歯を見せて笑った。
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