152人が本棚に入れています
本棚に追加
「冗談、ですよね?」
「まさか。契約書もある」
クロエさんは動画で手にしていた紙を差し出した。
契約内容だけでなく、きちんと日付と署名も書かれている。
ミミズのような俺の字。
クロエさんの字は驚くくらいの達筆で、思わず「字、綺麗なんですね」と口をついて出た。
クロエさんはまったく表情を変えない。
「酔っていた時の約束なんて……」
「ここまで一人で運んできたんだけど」
「それは……本当にご迷惑お掛けして申し訳なかったですし、感謝しています……」
それを言われてしまうと謝るしかない。
ひどく酔っ払っていたのは確かな事実。
「クロエちゃん、若い子からかっちゃダメでしょ。酔っ払いの介抱には慣れてるくせに」
若い子扱いされるということは、クロエさんはけっこう年上なのだろうか。
クロエさんの年齢は見当がつかない。
なんだかとても不思議な空気に包まれていて、年齢だとか、性別だとかを感じさせない。
「ねぇ、そういえば名前は?
まだ聞いてなかったよね」
あずささんが覗き込みながら聞く。
「……アオイです」
「名前?それとも名字?」と言いながら、あずささんは冷たいペットボトルを差し出した。
「名前も名字もアオイです」
「え?」
「青井 アオイ……です」
そう答えると、あずささんは一瞬、驚いた顔をして「じゃあアオちゃんね。うんうん、アオイっぽい顔だわ」と大きく頷いた。
最初のコメントを投稿しよう!