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『拝啓 佐藤南美様
気持ちの良い秋風が吹きわたる頃となりましたが、いかがお過ごしでしょうか。
改めて申し上げるほどでもありませんが、私は子供の頃、あなたと文通をさせていただいた矢田部剛です。お手紙、拝読させていただきました。大変驚いたのと同時に、私も読んでいるうちに懐かしさで胸がいっぱいになりました。もう一度、あの頃に帰りたいとさえ思いました。それくらい、佐藤様とのやり取りは私の心に深く刻まれています。
そこで、私からの提案なのですが、今一度こうして文通を再開するというのはいかがでしょうか。季節の出来事や、最近身の回りに起こった少しおかしな話など、手紙の上で腹を割って語り合えたらと思います。以下に私の現住所を記しておきますので、気が向いた時にでも返信をいただけると幸いです。
では、これから寒くなっていきますが、お体に気をつけて実り多い秋を満喫されますよう、お祈り申し上げます。
東京都○○市△△町□□××―×× 矢田部剛
敬具』
書き終わってボールペンを置く。自分ではなるべく丁寧に書いたつもりだが、佐藤の手紙と比べると、やはり雑然さは否めない。
それでも、今俺に書ける最大限の誠意を込めたつもりだ。返信もきっと来るだろう。
俺は便箋を三つ折りにして、白い無地の封筒に入れた。封をして切手を貼ると、まだポストに入れてもいないのに、達成感が体をやんわりと包んだ。
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