オールドペンフレンド

『朝晩だけでなく日中も涼しくなってきましたが、いかがお過ごしでしょうか。私は昨日、近所の美術館に企画展を見にいってまいりました。狩野派の絵画などが数十点展示されていて、とても興味深い展示でした。矢田部さんは何か芸術鑑賞など、嗜んでいられるものはありますか』

『僕は芸術には疎いのですが、スポーツの秋ということでスポーツ観戦を少々嗜んでいます。とはいっても競馬なのですが。先日も府中の方にある東京競馬場にレースを観に行きました。生で見る競走馬の走りは、テレビよりも迫力があって面白いですよ』

『最近、秋の長雨が続いていますが、お障りなくお過ごしでしょうか。私は先日、地元で開催された博多おくんちを見にいってまいりました。お神輿を中心に、獅子舞やブラスバンドが列をなしていて、とても楽しかったです。矢田部さんの住む街では、何か秋祭りが行われていたりしますか』

『僕の近所の神社では一一月には酉の市が行われます。とはいっても、佐藤さんのところのお祭りとは、比べ物にならない小規模なものですが。あとは東京で一〇月のお祭りといったら、やはり渋谷のハロウィンですかね。僕はあまり行かないのですが、ご存知のように大勢の仮装した人たちで盛り上がります』

『秋冷日増しに厳しくなるこの頃ですが、お健やかにお過ごしでしょうか。私の住む福岡でも、ようやく木々の葉が色づいて参りました。そこで、ご相談があるのですが、今度お会いできないでしょうか。一緒に舞鶴公園や楽水園など、紅葉の名所を巡るのはいかがでしょう。私も矢田部さんに、福岡の街を案内したいと考えています。いいお返事を期待しています』

　文通を始めて一か月あまり。突然の提案に、俺は心底驚いていた。いささか急すぎるのでは。

　だけれど、三五年前は会いたくても会えなかった俺たちなのだ。積もり積もった思いが溢れ出しても、おかしくはない。

　俺はメモ帳で、仕事のない日付を確認した。往復の交通費は痛いが、今年に入って初めて、俺の胸は弾んでいた。