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――だが、今日は金曜日じゃない。
不審に思いながら紙袋の中を見ると、そこには彼女にあげたものと同じ服が入っていた。それは所々破れたり、泥で汚れていたりしてした。
嫌な予感に胸の底が冷たくなる。
服に添えられていた手紙の最初の一文を読んで、全身から血の気が引いた。
『どうして僕のプレゼントを他の奴にあげるの?』
一瞬にして全身が鳥肌に覆い尽くされた。
さらに文章は続いた。
『君が優しくて人の頼み事を断れない性格なのはよく知ってるよ。そして僕は君のそういうところが可愛いと思っている。でも、僕からの贈り物に一度も袖を通すことなく、他の女たちにあげるのはどうかと思う。もちろん、君だけの責任じゃない。君が優しいことをいいことに、服をくれと言い出したあの図々しい女たちが一番悪い。それでも、やっぱり君にも非がある。しかも服をもらって喜ぶ女を見て満更でもない顔をしていた君に、僕はどれだけ傷ついたことか……。大事に押し入れに仕舞っている服をいつ着てくれるのか、それだけを楽しみにしていた僕の気持ちを君は易々と裏切った。その償いはしてもらうよ』
手紙を読んで、初めてこのストーカーの目当てが妹ではなく、自分だということに気づいた。
しかも手紙の内容から部屋に盗聴器などが仕掛けられている可能性が濃厚になった。
今までの妹のストーカー被害を間近に見てきたので、その恐ろしさは嫌と言うほど知っている。
すぐに引っ越しを決意し、部屋を引き払うことにした。
引っ越し当日、話を聞いた同僚Bが手伝いにきてくれた。ストーカーにバレないよう引っ越し業者は呼ばずこっそり一人でと思っていたので、とても助かった。
自分は部屋で荷物をまとめ、同僚がそれを外に持ち出し車に乗せる。こうすれば、万が一ストーカーが外からアパートを見ていたとしても荷物を運び出しているのは同僚B。自分の引っ越しとは思わないだろう。――もちろん、ストーカーが同僚の顔を把握していなければの話だが……。
心配をよそに、引っ越しは夕方には無事終わり、新居で同僚Bに礼も兼ねてテイクアウトの夕食と酒を振る舞う。
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