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「最近の井村のことなんだけど……、ちょっと様子が変じゃないか?」
「変?」
圭人は首を傾げた。尊の最近の言動を思い返してみるが、変なところなどひとつもない。むしろ可愛さが増して、困っているくらいだ。
「変ってどこが?」
全く思い当たる節がなく聞き返すと、金原はなぜか口をもごつかせなかなかはっきりと答えようとしなかった。
「いや、どこがって言われると俺も上手く言葉に出来ないんだけど……」
「なんだよ、それ。質問しといてその答えを上手く言葉に出来ないって、それこそ変だろ」
「うん、まぁ、そうなんだけどさ……」
圭人があからさまに呆れて見せても、やはり金原の返事は依然として煮えきれないものだった。
しばらく逡巡していた金原だったが、突然ビールを一気飲みすると、ドン! と勢いよくグラスをテーブルに置き、意を決したように口を開いた。
「だからっ、俺が言いたいのは……っ、最近の井村、すっごくエロく見えるんだけど、どう思う!?」
半分自棄も入った勢いで金原が訊いてきた。その顔は酔っ払いのように真っ赤だった。しかし金原は酔いが顔に出るタイプではない。ということは、その顔の赤さの理由はひとつだ。
圭人は一瞬だけ目を冷たく細めたが、すぐにまたいつものおちゃらけた笑みを貼り付けた。
「どう思うって、俺は金原と違って女の子が好きだから、男がエロく見えるとかよく分かんねぇ」
嘘だ。女なんかより尊が大好きだし、尊が色気を増していることは誰よりも知っている。そして、その原因が自分であることも――。
「それにしてもあの尊がエロいとか、ははっ、なんかウケる。つーか、勘違いじゃねぇの?」
「いや、本当にエロいんだってば! まぁ、ゲイじゃない吉野には分からないかもしれないけどさ……」
言いながら溜め息を吐く金原に、内心ムッとなる。
なぜなら、その溜め息に理解されない落胆とは別に、自分だけが尊の色気に気づいているという優越感が微かではあるが感じられたからだ。
(ハァ? ふざけんなっ。誰が尊をあんなにエロくしたと思ってんだ! 俺だよ俺! 俺が毎晩毎晩、時には昼間まで、丁寧に抱いて今のメスイキ大好きなド淫乱な尊が出来上がったんだよ! エロくなったことに気づいたくらいで調子に乗るな!)
胸中で怒濤の暴言を捲し立てる圭人だが、もちろんそんなことはおくびにも出さない。
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