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「はははっ、ごめんごめん、分かってやれなくて。じゃあ逆に聞くけど、どこがどうエロくなったんだ?」
「どこがって……、上手く言えないけど、雰囲気っていうのかな。なんかエロいんだよ」
言葉は曖昧だが、その物言いはどこか確信めいたものだった。
(ふーん。やっぱり、ゲイだと男の色気に敏感なんだなぁ)
圭人はグラスを口に運びながら、胸の内で呟いた。
金原はその甘いルックスと上品な雰囲気で、社内の女子からは王子と持てはやされているが、実は女に興味の無い生粋のゲイである。
入社当時から尊のことが気になっていたようで、同期にしては妙に仲のいい圭人と尊の関係を当初は怪しんでおり「……もしかして二人は付き合ってるのか?」と圭人に直接訊いてきたくらいだ。
二人の仲の良さが単にいとこであるためだと知ると、すっかり圭人を信用しきった金原は、自分がゲイであることと尊に好意を寄せていることを打ち明けた。そこからこの秘密のお悩み相談会は定期的に開かれるようになったのだ。
もちろん、圭人に金原の悩み――尊への秘めた恋心を解決へ導く気持ちはさらさない。恋の悩み相談役などという面倒な役を買って出ているのも、恋敵の監視、あるいは敵情視察のためだ。
そうとは知らない金原は、圭人を協力者だと疑うことなく、尊への想いや悩みを包み隠さずこうして話すのだった。
(金原って、仕事できるし頭の回転も速いけど、恋愛に関してはほんと馬鹿になるよなぁ。しかもヘタレ。まぁ、そのおかげで優秀な同期を一人失わずにいるんだから、そこには感謝だよな)
圭人はグラスをテーブルに置き、左手で頬杖をついた。
「なんかエロい、ねぇ。あれじゃね? 色気づいたってことは、もしかすると素敵な恋人でもできたのかもな」
「不吉なこと言うなよ。考えないようにしてたのに……」
じとりと湿っぽい目で金原に睨まれ、圭人は笑って謝った。
「ごめんごめん。でも普通に考えて、色気が出てきたとか言ったらまずはその可能性を考えるじゃん」
「まぁ、確かにそうだけど……」
「もしかすると尊の奴、意中の鈴井さんとめでたく付き合うことになったのかな?」
「全然めでたくないっ」
冗談半分の言い回しにも目を尖らせる金原に、これはだいぶナイーブになっているようだ、と苦笑する。
「そうだな、全然めでたくないな。ごめんごめん」
「それに、もし仮に恋人ができていたとしても、俺の勘だけど、たぶんそれは鈴井さんじゃないと思う」
「まぁ、確かに鈴井さんとどうこうなった雰囲気は感じられないよな。それにもし付き合い始めたとしたら、俺たちに報告があるだろうし。ということは、俺たちに隠れて合コンにでも行って出会った相手とトントン拍子に、って可能性もあるな」
「いや、それもないと思う」
妙に断定的な言い方をする金原に、圭人はおや? と片眉を上げる。
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