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「ずいぶん断定的だな。なにか確証でもあるのか?」
「いや、確証なんてないよ。ただ……」
そこで金原は言い淀み、言葉を切った。そしてしばらく逡巡の間を置いてから、圭人の様子を窺うようにちらりと見た。
「どうした?」
「いや、これは本当に俺の勘だけど、恐らく相手は女じゃない。……あの感じはたぶん男に抱かれてる……気がする」
躊躇いがちだがどこか確信めいた物言いの金原に圭人はへぇ、と感心する。
(ゲイだと男に抱かれてる男の色気みたいなのが分かんのかね。それとも願望のフィルターがかかった思い違いか……)
どちらにせよ、尊が男に抱かれている可能性を見出されるのは厄介だ。
何か手を打っておかなければ……――。
「あの尊が男に抱かれてるねぇ……」
圭人は両手を後ろにつき、天井を仰ぎ見た。そして、
「――ふはっ! はははははっ!」
耐えきれないとばかりに吹き出して、ことさら大きな声を上げて笑った。
「ちょっ、笑うなよ! 人が真剣に言ってるのに」
「いや、ごめんごめん。でもだって、あの尊が男に抱かれてるとか……、ははっ、いや想像したらマジでウケる」
「~~~~~~ッ!」
金原の顔が赤くなる。しかしそれが怒りからではなく羞恥からであることは明白だ。
圭人は胸の内でほくそ笑んだ。
たぶん男に抱かれてる――、そう言った時はどこか確信めいていたが、所詮は勘に頼った確証のない憶測だ。
それを第三者に馬鹿げていると言わんばかりに笑い飛ばされればたちまち拠り所を失い、自分の発言が妄想めいたものに感じてしまうに違いない。
根拠のない確信が崩れていく様を金原の表情から感じ取った圭人は、話を進めた。
「いやぁ、笑わせてもらった」
「俺は笑わせるつもりで言ったわけじゃない」
「まぁ怒るなよ。仕方ないじゃん、だってあの尊だよ? いい奴だけど、男が欲情するようなタイプじゃないじゃん」
「それは、井村のことを好きな俺に喧嘩を売ってるのか?」
「いやいや、まさか。でも金原みたいな物好きはそう多くはないってこと。限りなくゼロに近いと言ってもいい」
「やっぱり喧嘩を売ってるじゃないか」
ムッと金原が眉根を寄せる。
「ははっ、そんなつもりはないんだけどなぁ。まぁ、ライバルは少ない方がいいじゃん」
若干、この話題に飽きてきた圭人は、グラスの水滴で濡れたテーブルを手元のおしぼりで拭きながら言った。
「そりゃあそうだけど……。でも井村の魅力に気づいている奴って俺だけじゃないと思うんだよな」
金原の言葉に、圭人の手がピタリと止まる。
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