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可愛い可愛い、君への贈り物(加筆修正版)
フリルやレースがついた服は女の子が着るもので、間違っても男が着るものじゃない。
毎週金曜日、残業を終えて帰ると、差出人不明の紙袋がドアノブにかかっている。
中身は決まって服だ。しかも女物の。
俺は大きく溜め息を吐き、ガサゴソと音を立て袋の中身を確認した。
中には可憐なレースがあしらわれた白いワンピースが入っていた。
「よくもまぁ、毎週飽きもせず送ってくるもんだなぁ」
俺は見知らぬ差出人に、呆れ半分、感心半分で呟いた。
差出人は大方見当がつく。――ストーカーだ。
ただし、もちろん俺のストーカーではない。
「あ! お兄ちゃん、仕事お疲れ~!」
声がして振り返ると、妹の美優が手を緩く振りながらコンビニの袋をぶら下げてこちらに向かってきていた。
俺は眉間に皺を寄せた。
「おい、来る時はちゃんと連絡しろって言っただろ」
「えー、さっきメッセージ送ったよ」
「見てない。というか返事がないのに来るなよ。俺がいなかったらどうするつもりだったんだ」
「お兄ちゃんの返事とか待ってたら朝になっちゃうよ。それにお兄ちゃんがいなくても合い鍵持ってるから大丈夫だし」
ゆるキャラのキーホルダーのついた鍵を顔の前で得意げに揺らす美優に、俺は溜め息を吐いた。
「お前はもっと危機感を持てよ。この間、話しただろ? お前のストーカーが服を毎週持ってきてるって」
「ああ、そういえば言ってたね。あ、もしかしてそれが例の?」
美優がまるで他人事のように、好奇の目で紙袋を覗き込む。
「そうだよ。というか、毎週金曜に来るって言っただろ。もしそのストーカーと鉢合わせしたらどうするんだ」
もしかするとまだどこかに潜んでこっちを見ているかもと思い、美優を体で隠しながら辺りを見回した。
「あはは、お兄ちゃんびびってんの?」
「びびってねぇよ」
「大丈夫だって。こういうの慣れてるし。ほら、ストーカーされるのは美少女の宿命だから」
得意げに微笑み美優が言う。
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