夕暮れ時のファミレスで

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*  大学で同じ学科に通う同級生、松田から連絡が来たのは久しぶりのことだった。  履歴を調べてみる気にもならなかったけれど、とにかく久しぶりだった。  大学四年になってからあまり大学に行く必要のない僕は、卒業単位が足りず留年が決まっている彼とはここのところ会うことがなかった。  松田が、僕の高校の同級生・遠藤絢香と付き合ってから1年以上が過ぎた。学生カップルとして、すべきことを一通りクリアしてきた松田と遠藤は、残された数少ないイベント『別れ際』に入っていた。  松田はとっくに別れるつもりで、それを言葉にしているが、遠藤は納得しておらず、ややこしいことになっている。 「元はと言えば紹介したのは、岩瀬(いわせ)だろ」  という謎の理由で、僕は松田と遠藤の間に入る「仲裁役」になってしまい こうして夕暮れ時のファミレスにいる。  ただし、僕が松田に遠藤を紹介したことなどはなく、松田と僕たちが行った飲み会の隣のテーブルにたまたま遠藤たちがいただけで、成り行きで松田と遠藤が自己紹介しあっただけだ。  その1か月後に、僕が知らないうちに松田と遠藤は付き合いだした。空虚な感覚を持ち合わせつつ、それを表面には出さずに僕は薄っぺらく「よかったな」と遠藤に笑いかけた。  あれから1年半。  別れを切り出したい松田は何かの用事でなかなか現れず、僕は遠藤とテーブル越しに向き合っていた。もう1時間以上待っている。  別れを切り出されている女性と、その友人Aである僕、なんとも妙な構図だ。 「松田、来ないね」  その台詞はもう何度目だろう。そんな言葉を聞かされても僕は松田ではないのでどうすることもできない。雨が降り始めてからだけでも、もう三度もその台詞を聞かされている僕だが、高校生の頃は遠藤のことが大好きだった。
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