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黒いセミロングの後ろ姿を見るだけで、あれが遠藤か遠藤じゃないかを判別することができた。今思えば気持ち悪い奴だと自分でも思う。
小学生の頃から知っている彼女のことを「好きだ」と気づいたのは高校一年のときのことだ。それまでに好きになる子がいなかったわけではないし、女子と何の縁もなかったわけではない。ただある日ふと気づいたのだ。遠藤ってかわいいのかもしれない、と。
そう気づいてはみたが、くだらない話をするだけで、僕と遠藤の間に「恋」なんてものは三年の月日の間に生まれることはなく、その代わりに僕は何度も彼女が付き合ってから別れるまでを見てきたし、その度に愚痴られてきた。
「遠藤なら、きっといい奴みつかるよ」
そんな言葉を何度言ったのかさすがにもう数えていない。
違う大学に通うようになってからは、あまり会うこともなくなったが、それでも遠藤がイラつくことや困ったことがあると呼び出されてしまうし、金欠の彼女になぜかゴハンを奢ることになることもよくある話だ。
たぶん、僕は「都合のいい男」なんだろう。
自分に手出しをしてこない、自分の味方になってくれる奴、そんな扱いなんだろう。
呼び出しボタンを押せばやってくる、そんな存在なのだろう。
情けないのは、そんなポジションであるとわかっていながら、今日もこうして遠藤の話に愛想笑いをしている自分だ。
グラスを手に取り、ストローから飲んだ炭酸飲料は、味がひどく薄くて、炭酸を感じなかった。こんな飲み物でも僕の渇きを潤してはくれる。
窓の向こうはまだ夕立が続いている。傘がないからここにいる、僕はそう自分に言い聞かせて、グラスをテーブルに戻した。
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