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思えば、初恋の女の子にも似た言葉を言われたことがあるような気がする。
『そうやって私の話を聞いてくれるとこが好きなのかも』
そう言ったあの子は「好きなのかも」のまま、決して僕とつきあってはくれなかった。
あの頃から僕は何も変わっていないんだろうか。
成長できていないから、内定の一つも貰えないんだろうか。
成長できていないから、昔、好きだった子の愚痴話を聞くことしかできないんだろうか。
もう六時になろうとしている。今日中にエントリーシートを書きたいと言えない僕は、雨が止んだら帰ろうともう一度誓い、窓の向こうを見た。窓ガラスを伝う雨は物語の行方が決まらないとでもいうように、不規則に流れ続けていた。
「また見たね」
遠藤が発したその言葉の意味がわからず、僕はゆっくりと向き直り彼女の顔を見た。
両手で頬杖をつきながら、その大きな瞳が僕を捕らえ、唇は真一文字に結ばれていた。そしてその唇が開く。
「岩瀬さ、また窓の向こうを見てた。さっきから雨が止むかをずっと気にしてるね」
「え……」
そんなに窓の向こうを見ていただろうか、と思いつつ、もう一人の自分が「何度も見ているだろ」と突っ込む。
「そんなに早く帰りたい? ドリンクバーのおかわりいかないぐらい早く帰りたい? 彼女がいるわけでもないのに。私といると苦痛?」
言葉を失うとは、このことだ。
遠藤の怖いところだと思った。ずっと自分勝手に喋っているだけかと思いきや、こうして僕のことも実は見ている。彼女がいるか探りを入れてきたのも、僕が窓の向こうを気にしているからだったのか。
苦笑して手に取ったグラスにはもう氷しかなく、濡れたコースターがグラスの底に張り付いていた。
「冗談だよ」
僕が凍り付いていると、遠藤は声をあげて笑った。
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