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「ま、こんな愚痴ばかり聞かされてたら嫌にもなるか」
遠藤は頬杖を外し、ソファーに持たれて天井を見上げた。
こんなとき気の利いた言葉が思いつかない僕は、おそらく「好物件」などではないのだろう。
「帰ろっか。松田も来ないし、岩瀬に話してたらなんか落ち着いたし」
「松田を待たないの?」
「……もうダメってわかってるもの待ってたってダメなんだよ。待ってるだけって性に合わないし。いろいろ話してたら、松田ってそんなイイ奴じゃないってわかった。なんかさ1年半もつきあったし、意固地になってたけど、別にやり直しに戻ってもいっかってね」
「……遠藤がそれでいいと思ったんだったら、それでいいんじゃないかな」
「どこかに好物件がないものですかね」
「遠藤なら、きっといい奴みつかるよ」
と僕が言うと「そだね」と遠藤は言い、今度は遠藤が窓の向こうを見た。
言葉の上では感情を整理したようなことを言ったけれど、本当はつらいんじゃないのかなんて考えた僕は、遠藤が実は泣いているのではないかと思った。
しかし、遠藤の目からはひとすじの涙も流れず、少し微笑みを浮かべたまま雨に濡れる窓の向こうを見ていた。
僕はその視線が僕に向くのを待っていたがそれより先に「よし!」と言って遠藤は立ち上がった。
帰るという意味なのだと思い、僕もまた立ち上がった。
「ありがとね」
と遠藤が僕に言ったが、その意味はわからなかった。あまり考えることでもないかなと思っていたが、妙に遠藤はニコニコと微笑んでいた。
遠藤がトイレに行くという間に僕は伝票を手に取ってレジへと向かった。「4,001円」という書かれたそれと財布の中身を見比べて、ここはカードを切るしかないなと思った。
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