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セミの声がうるさい8月初旬のことだった。
高校3年の俺は、ダラダラとした夏休みを過ごしていた。
高3の夏なんて、だいたい夏期講習で勉強漬けの夏を送るか、高校最後の夏休みを友達や彼女とせいいっぱい満喫するかのどちらかだが、俺はそのどちらでもなかった。
受験に人生をかけていたわけでもないし、やつらとの思い出は十分あったし、彼女はいなかった。
夏の暑さになにもかもが嫌になっていた。
夏が終われば、あっという間に受験の日がやってくる。
受験が終わればこの街を出て新しい生活が始まる。
なんて憂鬱だろうか。
やりたいことなんて特になかった。
適当な大学を出て、適当な会社に入ればいい。夢がないから、将来に対する不安もやる気もない。
そんなつまらない夏休みのある日、俺は母さんに買い物を頼まれ、しぶしぶ外出していた。
帰る頃には日が傾き始めていたが、うだるような蒸し暑さはそのままだった。
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