鈍色の向こう

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「ごめん、俺がノート写させてって言ったのに」 「あぁ、いやそれは全然いいんだけどさ」 わかりやすく落ち込む姿が犬みたいだ。 嬉しい時は思いっきり喜んで。 楽しいことにも全力で。 誰かがピンチだと助けに入るし、 案外と涙もろい。 当然ながら誰からも好かれる。 授業中寝てんのに先生の印象もいい。 僕とは正反対だなぁ、と夕陽の橙を受けて明るくなった遼太の焦げ茶の髪を見上げた。 背も高いとかずるいな。 「あ」 そう言ったと同時に窓の外で大きな雨粒が、ビシャッと形を崩した。 それを合図に、あっという間に黒い雲が空全体を覆って、大きな雨粒が窓を強く叩き始めた。 「うわやべぇ、降ってきたー」 「すぐ止むかなぁ」 僕はそう言って遼太の頭の向こうの空を見た。 黒い雲の向こうには橙がかった青空と少しの白い雲が見えて、なぜか心臓が跳ねた。 「止んだら即帰ろうぜ」 遼太の言葉を聞き終わらないうちに僕は教室を飛び出していた。 「っはっ!?えっ?なにお前どこ行くの!」 背後で遼太が叫ぶのが聞こえる。 でも振り返ることなく階段を駆け下りた。 昇降口からそのまま外に飛び出して、校庭の片隅で雨に打たれた。
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