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日中の青空の中、立ち昇っていた入道雲が示した通り境木彰が退社し帰途に就いたころには薄暗く分厚い雲が世界から明るさを奪っていった。
軽のバンを走らせ、信号で止まる度に空模様を前のめりになりフロントガラス越しに覗くように確認しながら、まだ降るなよと不安を独り言つ。
そんな彼の願いもむなしく、帰路の終盤に差し掛かったあたり雨が降り始めたのだった。
ため息をついている間にみるみる地面の色は変わり、ワイパーを最大速にしなければ視界もハッキリしないほどだ。
干しっぱなしの洗濯物はとっくに諦めていた。
今はどちらかとアパートの前に敷地にもうけられた駐車場から部屋までの数メートルをどうやり過ごすかが課題だった。
シートを倒し荷台と化した後部には大型のスコップと養生テープ、それと黒い業務用のゴミ袋が積んであったが、養生テープはどう考えても役に立たないし、ゴミ袋をそれだけの為に下ろすのはさすがに気が引ける。
かと言って大型のスコップを傘の代わりに使ったとしても守れるものはいいとこ頭頂だけだろう。そもそもそれで頭を守ろうとしてもスコップに付着している土が雨に流され泥だらけになるのが関の山だ。
駐車場に車を停めた彰は今一度空を確認する。
止む気配のない夕立にため息をついて、意を決したように車のドアを開ける。
一段と大きな雨音にさらされながら少しでも被害を減らそうと小走りになるが、そんなのは焼け石に水だった。
鉄骨の外階段をカンカンと音を鳴らしながら駆け上がると、玄関の前でしゃがみ込む人影が大きな瞳を彰に向けておりガッチリと視線が絡まったのだった。
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