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「…気を失ってると痛みはあるのか、その辺は解らないな。」
左手に持っている両刃のナイフが俺の顔をうつした。
血だらけだ。
メスは持っているけれど、ここで心臓を取り出す時間もない。
だから刺そう。
もうすぐセドリックが来る。
彼女を目の前で殺したらどんな顔をするだろう。その顔を見てからエリザベスの後を追うのも悪くない。
俺は何処へいってもセドリックだ。
けれどセドリックじゃない。
セドリックにつけた火傷の痕は×
あれは、お前が偽物なんだ…って印だ。
「っトビー止めろっ!!」
「……」
何も楽しい事がない…、セドリックは成長するたびにそんな顔をしてた。
なのにエリザベスが来てから前と違う。
『どうでもいい』という、無気力さがなくなった。
だからエリザベスに興味を持った。毒草オタクだというから、俺の方が話が合うと思った。
「止めない。エリザベスはおまえのものじゃない。」
「そっくりそのまま返してやる。エリザベスは誰のものでもない!」
「そうだとしたなら、俺が心を奪う。」
「っ止めろ!止めてくれっ!!」
「そこで見てればいい。」
「……大切な……ま…る…ら……でも…する」
セドリックが何か言ったように思ったが、木が燃える音で小さな音は聞こえなかった。
パンパンパンパンッ
「っっ!?…」
次に大きな音が聞こえた時、腹から血が出てるのに気がついた。
視界が暗くぼやけていく中で見たもの。
涙を浮かべたセドリックが、エリザベスの名を呼んで抱き締めてるところ。
「エリザベス!!起きろ!!」
俺は馬鹿だと思う。
さっさとエリザベスを殺せば、それでよかったのに…
それをしなかった。
エリザベスがセドリックを好きなのは直ぐにわかった。俺を偽物だと確信して、躊躇いもなく顔面を殴った。
もしかして本物だったらどうしよう。…なんて頭を過らなかったんだ。
心臓をくりぬいたって、エリザベスは手に入らない。そう思うと、空しくなった。
何でも力で押さえつけて、縛って動けなくしてから殺してきた。簡単だったし楽しかった。
エリザベスにもそうしたかった。
そうするつもりだった。
何で出来なかったんだ。
よくわからない。
何が欲しくて何が要らなかったのか。
もう正解を知る事は出来ない
…まるで出口のない迷路だ。
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