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洸太は20歳になった。
より人間らしい、理想の性格プログラムを突き詰めてきた研究を実用化できた。初期設定、定期的な改善をすることで、複雑な人間の性格が着実に再現されていく。
「亡くなった娘がよみがえったようだ!」
「理想の恋人に出会えました!」
洸太の元には、称賛と感謝の声が毎日届く。
コウに助言され、洸太は研究所を出て会社を立ち上げた。
人付き合いが苦手な洸太に代わり、コウが企業との仲介、プロモーションも行った。
「Personality forming、通称PFプログラムはあなたの望む人格を作り出します。人生に、あなた好みの家族を!」
堂々と舞台でプレゼンを行うコウ。表に立つのはいつも彼だが、莫大な金が入ってくるのに豪華な食事も栄誉にも興味がない。かといって洸太はそれらを楽しむ気になれなかった。ほとんどがコウの手柄だ。
日に日に言いようのない気持ちが頭に巣食っていく。
ある日、胸に妙な痛みが走った。会社の廊下、先を歩いていたコウが立ち止まる。
「洸太、疲れてない?」
「大丈夫」
「今度メディカルチェック受けよう。予定入れとくから」
「大丈夫だって」
差し伸べられた手は美しい。働き詰めでも疲労を感じず、不満を言わず洸太を気遣う。
聖人のようだ。
洸太はいつだって自分のことしか考えていないのに。
洸太はかさついた自分の手をじっと見た。
やる気が起きない日々が続いた。研究が進まずともコウが既存のデータを改善、発展してくれる。会社に洸太がいなくても問題なかった。
今やコウは世界にとって洸太以上の存在だ。洸太はP Fプログラムのとっかかりを作ったに過ぎない。
自分は必要なんだろうか。何度もそんな想いが胸を掠めた。
「気分転換に実家に行ったら?」
コウの提案にしては珍しく、乗り気にはなれなかった。これまでのコウの提案は魅力的で、いつだって2人で楽しんできたのに。
だが、ほかにやることもない。
母と過ごした思い出の屋敷、自室に屋根裏。大事な居場所を維持するために実家に経済的援助をしている。屋敷の様子だけでも見ておくことにした。コウは会議があり、ボディガード用ロボを2体つけて洸太を送り出した。
久々の実家は、身構えていたのに父親、義理の母共に不在で拍子抜けした。
手入れされている自室は時が止まっていたかのようだ。窓から差し込む木漏れ日をぼうっと眺める。心地よい静寂。
ところが、その自室のドアを開ける者がいた。
「依子、何しにきた」
久しぶりに声を発した気がする。戸惑っていると兄の様子をよそに大学生になった妹が部屋に入ってきた。
「あらお兄様、ちょうどよかった。真理衣こちらが兄よ」
妹に続き、黒髪の少女が洸太の前に現れる。
「はじめまして、宮郷真理衣といいます。お会いできて光栄です。私、PFプログラムを作った洸太さんに憧れてて……」
キラキラと輝く瞳が洸太を見る。
その後のことはよく覚えていない。ただ、緊張していつも以上にうまく話せなかったことと、電子端末に入った彼女の連絡先だけがいつまでも洸太の頭に残っていた。
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